他人の刑事被告事件に関する証拠を隠滅,偽造,変造し,または偽造,変造の証拠を使用する罪。刑は2年以下の懲役または20万円以下の罰金(刑法104条)。刑法の表記現代化以前は〈証憑湮滅(しょうひょういんめつ)罪〉とよばれた。本罪は,国の刑事審判作用を保護しようとするものである。ここでいう他人とは,自分以外のすべての者である。したがって,自己の刑事被告事件に関する証拠隠滅は罪とはならない。自己が刑事責任を免れようとしてやったことは期待可能性がないとして,本人の証拠の場合を除いたのであろう。刑事事件である以上,起訴の前後を問わないし,またその他人が有罪であるかどうかも問わない。したがって,有罪の証拠を隠滅する場合だけでなく,無実の者をおとしいれるためにアリバイの証拠を隠滅する場合も本罪になる。隠滅とは,滅失に限らず,証拠の顕出を妨げるいっさいの行為をいい,たとえば証人の隠匿も隠滅である。偽造とは,真実でない証拠を作り出すことをいい,変造とは,証拠に加工してその効果に変更を加えることをいう。なお,犯人の親族が犯人の利益のために本罪を犯したときには,刑が免除されることもある(105条)。さらに,犯人が他人を教唆して自分の刑事被告事件に関する証拠を隠滅させたとき,本罪の教唆犯になるかどうかという問題がある。正犯として期待可能性がない以上,共犯としても期待可能性がないとする否定説と,正犯として期待可能性がないことは,共犯として期待可能性がないことまでも意味しないとする肯定説とが対立している。判例は肯定説に立っている。
執筆者:大越 義久
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他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、もしくは変造し、または偽造もしくは変造の証拠を使用する罪で、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられる(刑法104条)。証憑湮滅(しょうひょういんめつ)罪ともいう。本罪は、国家の刑事司法作用に対する罪である。本罪の客体は「他人の刑事事件に関する証拠」である。「他人」とは、行為者以外の者を意味し、行為者自身の犯罪の証拠はこれに含まれない。また、犯人または逃走者が行為者の親族である場合には、刑の任意的免除とされている(同法105条)。
問題となるのは、共犯者が「他人」にあたるかであるが、通説・判例とも、共犯者の刑事事件でも、もっぱら自己のため証拠隠滅を行った場合や他の共犯者および自己の利益のために行った場合には、本罪にあたらないものと解している。次に、証拠の「隠滅」とは、物理的に滅失する場合に限らず、証拠としての価値を低下させたり、証拠の発見を妨げたりする行為でもよい。なお、証人に偽証させる行為は刑法第169条の偽証罪が成立する場合は別として、偽証罪にあたらない偽証は本罪にあたりうる。
[名和鐵郎]
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