人を欺いて、錯誤に陥れ、財物または財産上の利益を処分させる罪で、刑罰は10年以下の懲役である(刑法246条)。未遂も罰せられる(同法250条)。窃盗罪や強盗罪(これらを盗罪という)が被害者の意思に反して財産を奪取するのに対して、詐欺罪は恐喝罪と同様に、被害者の瑕疵(かし)ある意思(不完全な意思)を生じさせ、(財産的)処分行為(交付ともいう)をさせる点で異なる。また、詐欺罪と恐喝罪は被害者に瑕疵ある意思を生じさせる点では共通であるが、詐欺罪は「欺くこと」を手段とするのに対して恐喝罪が恐喝を手段とする点で区別される。なお、親族間での詐欺行為は刑が免除され、あるいは被害者の告訴により罪が論じられる(同法244条、親族相盗例)。
本罪において「欺く」(以下、欺罔(ぎもう)という)とは、作為(積極的に嘘(うそ)をつくこと)のほか不作為(告知すべきことを告知しないこと)でもよいが、取引慣習(商慣習)からみて許しがたい程度のものでなければならない。したがって、少なくとも被害者は欺罔がなければ処分行為をしなかったであろうといえる程度のものが必要とされる。なお、ある種の商取引では、消費者保護の観点から、たとえば虚偽表示や誇大な広告・宣伝について、上述の程度に至らない場合であっても、これを処罰する特別法が存在する(特定商取引に関する法律72条3号、軽犯罪法1条34号など)。
本罪が成立するためには、人を欺罔して瑕疵ある意思を生じさせ処分行為をさせる必要がある。したがって、現金自動支払機(ATM)、自動販売機、自動遊技機などの機械をごまかして金品やサービスを取得しても、本罪ではなく窃盗罪にあたる。同様に、たとえば、相手を欺罔して他に注意を転じ、そのすきに財物を奪取する場合も、欺罔はあるが、被害者に処分行為とその意思がない以上、本罪ではなく窃盗罪にあたる。なお、現行刑法は詐欺罪の補充規定として準詐欺罪を設けている。この罪は、未成年者の知慮浅薄または人の心神耗弱(こうじゃく)に乗じて、財物を交付させ、または財産上の利益を処分させることにより成立する(刑法248条)。
[名和鐵郎]
詐欺罪の特別犯として、1987年(昭和62)の刑法一部改正により、電子計算機使用詐欺罪(246条の2)が新設された。コンピュータ・システムを悪用して財産的利益を取得する場合、財物の奪取がないから窃盗罪にはあたらないし、人(自然人)を欺罔して処分行為(交付)をさせていないから詐欺罪にもあたらないからである。このような不都合を解決するため、刑法第246条の2が「前条に規定するもののほか」と規定することによって、人に電子計算機を操作させる場合は従来の詐欺罪によって処理することとしたうえで、これで対処できない場合について、詐欺罪を補充する形で追加されたのである。財産権の得喪や変更に関する事務処理が、コンピュータによって自動的に行われる場合において、これに虚偽の情報や不正の指令を与えて不実の電磁的記録を作り、または、自己の占有下にある虚偽の電磁的記録を用いて、自己または他人が財産上の利益を得る場合に成立する。たとえば、金融機関の職員が自らコンピュータを操作して自己の口座に架空の入金情報を入力する場合、偽造・改ざんしたプリペイドカード(テレホンカードなど)を不正に使用してサービスの提供を受ける場合などがこれにあたる。なお、本物のプリペイドカードであれば虚偽の電磁的記録ではないし、クレジットカードは財産権の得喪や変更に関する電磁的記録ではないから、これらを不正使用しても電子計算機使用詐欺罪にはあたらない。
[名和鐵郎]
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… 詐欺によって他人に損害を与えた場合,不法行為法の一般原則(709条)に従って,詐欺者はその損害を賠償しなければならない。【平林 勝政】
[詐欺罪]
人を欺いて財物や財産上の利益を得る犯罪(刑法246条)を詐欺罪という。刑罰は,10年以下の懲役。…
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