精神の障害により、善悪を判断する能力(是非弁別能力)またはこの善悪の判断に基づき自己の行動を抑制する能力(行動制御能力)が著しく劣っている場合をいう。このような場合には、限定責任能力者の行為として、刑が必要的に減軽される(刑法39条2項)。たとえば、精神病、知的障害による場合のほか、酩酊(めいてい)、薬物中毒、睡眠や催眠の状態などにより、判断能力や自己抑制能力が通常人よりも著しく劣っている者の行為がこれにあたる。これに対して、これらの能力が欠ける場合を「心神喪失」とよび、責任無能力者の行為として、責任が阻却される(同法39条1項)。心神耗弱にあたるか否かは、精神科医の精神鑑定を尊重して、最終的には裁判所が判断する。なお、かつての刑法第40条は、聾唖(ろうあ)者の行為につき、これを無罪とするか刑を減軽するものとしていたが、1995年(平成7)の刑法一部改正によって、本条は削除された。また、民法上、心神耗弱者は被保佐人(旧民法の準禁治産者)として、民法第13条が定める法律行為をなすにあたっては保佐人の同意を必要とする(ただし、かつて民法11条の条文中にあった「心神耗弱者」の語は、差別的な印象を与えるとして、1999年の改正により、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」という表現に改められた)。
[名和鐵郎]
心神喪失のように意思能力を完全に失うまでには至らず,不完全ながら理非善悪を判断し,その判断に従って一応意思決定をすることもできるが,その能力の減退がいちじるしい状態をさす概念。民法上は準禁治産の原因(民法11条),刑法上は刑の減軽事由(刑法39条2項)となる。心神喪失との差は量的なものにすぎないから,禁治産宣告の申立てが行われた場合に準禁治産を宣告することも,その逆の処理もともに可能と解されている(通説。判例は前者の事例について通説と同じ,後者の事例についての判例はなし)。病的な精神障害によるものであることを必ずしも要せず,また,準禁治産の原因としては継続的なものであることを要するが,刑の減軽事由としてのそれは一時的なものであっても差し支えない。過労,精神的窮境,酒精酩酊,集団暗示,内因性気分変調,月経なども刑の減軽事由としては問題となりうる。
→準禁治産者
執筆者:須永 醇
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…14歳未満の者は責任無能力である(刑法41条)。精神障害者については,心神喪失者は責任無能力となり(39条1項),心神耗弱(こうじやく)者は限定責任能力となる(同条2項)。判例によれば,心神喪失とは精神の障害により自己の行為の理非善悪を弁識できず,または理非善悪を弁識してもそれに従って行動を制御できない精神状態をいう。…
※「心神耗弱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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