窃盗罪(刑法235条),不動産侵奪罪(235条の2),あるいはこれらの未遂罪(243条)が親族間で犯されたとき(親族相盗)は親告罪となるが,直系血族,配偶者および同居の親族の間で犯されたときには,刑は免除される。ただし,親族でない共犯は,通常と同じに処罰される(244条)。この規定は,森林窃盗罪(森林法197条)に適用があるほか,詐欺罪(刑法246条),背任罪(247条),準詐欺罪(248条),恐喝罪(249条),これらの罪の未遂罪(250条)(以上251条による),横領罪(252条),業務上横領罪(253条),遺失物横領罪(254条)(以上255条による)にも準用されている。この規定の趣旨については,〈法は家庭に入らず〉という思想に基づく,一身的刑罰阻却事由を定めたものと解する見解が多数であるが,近親者間の占有・所有は合同的で,その侵害の違法性が少ないことによるとする見解も主張されている。
執筆者:山口 厚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
刑法は財産犯について「親族間の犯罪に関する特例」を規定している。すなわち、窃盗、不動産侵奪、詐欺(さぎ)、恐喝、横領、背任といった財産犯が、配偶者、直系血族、または同居の親族の間で犯された場合には、その刑が免除され、その他の親族の間で犯された場合には、親告罪とされる(刑法244条、251条、255条)。これを親族相盗例という。この思想的根拠には、「法は家庭に入らない」という考え方に基づき、財産犯人と被害者(通説・判例では、財産の所有者および占有者の両者を含む)との間に、所定の親族関係が存在する場合には、刑法により対処するよりも、親族内で自主的に解決することが望ましい、という点にある。
[名和鐵郎]
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