病気でない人が,人をだます目的で意識的に病気を装うこと。いわゆる仮病のこと。徴兵や軍務の回避,労働の回避,刑事訴追からの逃避,賠償金の獲得など,なんらかの利益を得るために身体障害や精神障害が偽られる。賠償金獲得の目的では身体障害が偽られることが多いのに対し,精神病に基づく犯行は刑事責任が問われないため,犯罪者では精神病が偽られることが多い。疾患への無意識的な願望により生ずる賠償神経症や転換ヒステリーでも,症状形成によりなんらかの利益の得られることが多いが,患者には病気を装っているという意識はなく,これらは明白な目的のために意図的,作為的に演技される詐病とは区別される。しかし,はじめ意識的に疾患を装っていた者が,しだいに偽っているという意識を失い,症状が本人の意志から離れて自動的に出現するようになることもある。なお,虚偽の多い劇的な症状を訴えて,各地の病院を転々とする例をミュンヒハウゼン男爵(ほら吹き男爵)にちなんでミュンヒハウゼン症候群という。
執筆者:臼井 宏+野上 芳美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
実際には病気ではないのに病気を装うことで不正な利益を得ようとする行為。類義語に「仮病」があるが、仮病は、会社や学校を休むためにかぜを引いたふりをするなど、軽度の病気を装うことをさす場合が多い。これに対して詐病は、より悪質で反社会的なものを意味する。たとえば保険金詐欺では、自動車の運転中にあえて急ブレーキをかけるなどして追突を誘発し、軽く接触しただけであっても、むち打ちの症状を重篤なように装い、多額の保険金を得ようとする。殺人などを犯した者は意味不明なことを口走り、奇怪な行動をとることで精神疾患を装い、減刑をねらうことがある。また、犯罪に至らないまでも、就労を拒否するために、うつ病のふりをして医師の診断書を取得し、長期にわたって休職するような例も詐病の一種である。
[編集部]
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