調査法(読み)ちょうさほう(英語表記)survey method

最新 心理学事典 「調査法」の解説

ちょうさほう
調査法
survey method

調査法とは,特定の事象や人間,集団などの対象について,特定の目的に沿って情報やデータを得る方法である。通常は,あるがままの状況を観察し,記録し,データを得ることが多い。

【社会調査social research,social survey】 ある集団の人びとの実態,意見,感情,価値観などの意識や行動様式について解明するために,実証的データを収集するのが社会調査である。社会調査には,質的調査qualitative surveyと量的調査quantitative surveyがある。前者は特定の少数の個人からの聞き取り,新聞や外交文書の内容分析を含め,記述的な事例調査case studyが多い。後者国勢調査のように社会の構成員全員を調べる全数調査exhaustive survey(悉皆調査),世論調査のように社会の一部の構成員を対象とする抽出調査sampling surveyなど,大規模の調査データを収集,計量分析し,社会全体の様相を把握する統計調査が多い。

調査票(質問紙)questionnaire】 社会調査では質問項目を並べた調査票(もしくは質問紙)を用いることが多く,しばしばアンケート調査questionnaire surveyと称される。ただし,調査専門家の間では,統計的標本抽出理論調査に基づいた調査ではないものを「アンケート調査(もしくはアンケート)」と称するので注意する。調査票の質問項目itemは,質問に対して,回答者に自由に回答させる自由回答形式open-ended questionと,あらかじめ用意してある選択肢から回答を選ばせる選択肢形式closed-ended questionがある。後者には,選択肢一つを選ばせる単一回答single choiceと複数選ばせる複数回答multiple choiceがある。質問項目は,探索的調査,確認的調査(仮説検証)などの目的に応じて作成される。既存の調査の質問を用い,経年比較longitudinal comparisonや国際比較cross-national comparisonのために用いることも多い。

標本抽出調査sampling survey】 国勢調査のような全数調査では多大なコストや時間がかかるので,しばしば集団の一部をそれが全体の縮図となるように抽出し,その調査結果をもって全体を推定する標本抽出調査が用いられることが多い。統計的乱数を発生させて,調査対象者全体のリストでそれに対応する個人を抽出することを統計的無作為標本抽出statistical random samplingという。調査対象全体をユニバースuniverse,それに抽出確率を付与したものが母集団population,実際の調査相手として抽出した部分を標本sampleという。たとえば「世論調査の内閣支持率」の場合は,日本の有権者全体が「ユニバース」であり,そのユニバースに一人一票を前提に,すべての有権者に等しい抽出確率を付与したものが「母集団」となる。そのようにして,有権者全体から,ある標本サイズsample size(例:1000人)の標本を抽出し,その回答データから母集団の内閣支持率を推定する。

【標本抽出誤差sampling error】 単純無作為抽出simple random samplingでは,母集団全員(人)のリストがあることを想定し,あらかじめ定めた標本サイズ(人)に対応して,重複しない個の「乱数」を発生させ,それに対応する人びとを一つの標本とする。そのような操作で,いくつもの標本が得られるが,調べるべき統計量(例:母集団の内閣支持率)の推定値(観測値)p′は,標本間でばらつきが出る。その統計的分布(ばらつき)の標準偏差の2倍をもって標本抽出誤差と称することが多い。すなわち,となる(ここで母集団の総数を1万以上と仮定したが,それ以下の場合は有限補正が必要である)。これは=0.5のとき最大となるので,一つの調査票のすべての調査項目について概略的に±を「誤差」として,それ以下の差では統計的には意味がある差とはいえないと解釈することが多い。たとえば=1万人のときは0.01,すなわち1%となる。

 実際の世論調査などでは,まず国勢調査データなどを基に全国を国政選挙の投票区などの地点に分割し,全国からいくつかの地点を人口比例で確率抽出し,次に各地点で住民基本台帳や選挙人名簿から無作為(乱数を用いて選ぶ)に,あらかじめ定められた人数の回答者を抽出して調査する(2段抽出)。面接調査の場合,全国から抽出する計画標本サイズが,たとえば=1000の場合,100地点で各地点10人ずつの抽出と,200地点で各地点5人ずつの抽出では,前者の方が少ない地点を回るのでコストは低いが,標本抽出誤差は大きくなる。さらに,2段以上の多段抽出multi-stage samplingも考えられる。面接法,郵送法,電話法などの調査モードsurvey modeや,データの有効回収率にも依存するが,一般に多段抽出は調査コストを低減させるが,標本抽出誤差は大きくなる。他方で,人口密度や地域性を考慮して,地点抽出の際に,それぞれの地域に対応する抽出地点数を確率的に調整することもある。これは,回答分布について地域間の差異(分散)は大きく,各地域内の差異は少なくなるように地域を層別して地点を抽出すると,標本誤差が少なくなるためである。これを層別抽出multi-strata samplingといい,事前の作業コストは高まるが,一般に標本抽出誤差を減少させることができる。他方で,現実の調査では回答の記録ミスや偽造など,非標本抽出誤差non-sampling errorも完全には避けられず,これについての考慮も必要である。

【標本抽出リストがない場合の標本抽出】 日本のように整備された住民基本台帳などが活用しがたい国では,エリア・サンプリングarea samplingを用いることが多い。第1段として,地点を国勢調査データなどに基づき地域ごとの人口に応じて確率比例抽出する。第2段の個人抽出では,抽出された各地点で既存の住宅地図を利用するか,地図を作製し,各地点で統計的にランダムに選ばれたスタート点から系統的に世帯を抽出する。このとき,ランダム・ルート・サンプリングrandom route sampling(アメリカではランダム・ウォークrandom walk,インドではライト・ハンド・メソッドright hand method)を用いることも多い。スタート点から道に沿って,たとえば3軒ごとに抽出し,角に来たら左回りに行く。協力してくれる世帯の調査対象の中で,いちばん最近の誕生日を迎えた人を抽出する誕生日法birthday ruleや,各世帯の調査対象すべてを年齢順に並べ,乱数表を用いたキッシュ法Kish methodなどで個人抽出する。各地点で回答者を選ぶときに,国勢調査データを参考に,あらかじめ指定された属性(性別,年齢層,人種等)をもつ回答者を計画数分だけ調査する割当法quota sampling(クォータ法)が用いられることも多い。 →質問紙法
〔吉野 諒三〕

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