論義(読み)ろんぎ

改訂新版 世界大百科事典 「論義」の意味・わかりやすい解説

論義 (ろんぎ)

論議とも書く。議論すること。とくに仏教において問答によって経論の要義を究明する方式をいう。インドの仏典に論式の規定が見え,中国では東晋の支遁が《維摩(ゆいま)経》を講じた際に論義の方式に依って以来,諸寺の講会において広く行われた。日本では652年(白雉3)に宮中で講ぜられた《無量寿経》の論義を初見とする。いまも長谷寺で行われている〈長谷論義〉などは仏教声楽や国語史の研究者の関心を集めている。
執筆者: 論義は簡単なフシを付けて唱え,一定の形式に従う。たとえば,問者(もんじや)の質問の文言を答者(たつしや)はまずそのまま繰り返して唱えてから自分の解答を述べ,問者はその解答を繰り返してから重ねての質問を述べるというように,手順がきまっており,長い論義になると,文体もナリ体から候体に移り,デアル体に及ぶなど,論義の種類や宗派の別によって形式が定まっている。論義は次の3種に大別される。〈講経論義〉(講問論義)は,〈講讃〉の法要における講師(こうじ)の講経に対して後輩の僧が質問を発するもの,〈番論義〉は研学中の僧同士が互いに問者・答者になって討論錬磨するもの,〈竪義論義(りゆうぎろんぎ)〉は資格試験である〈竪義〉の竪者(りつしや)(受験者)に対して,試験官側の問者が試問するものである。論義は,臨機に質問し応答するのが本旨であろうが,実際には問いも答えも辞句が定まっている。
執筆者:

謡事(うたいごと)小段の一種でロンギとも表記される。仏教儀式の論義をまねたものといい,問答の形式を残しており,役と役(または地謡)が交互に謡い,後半は地謡に移行する。リズムは拍の存在が明確な平(ひら)ノリ型。強吟(つよぎん)と弱吟(よわぎん)の両様がある。句数は一定しないが,およそ20句前後から成る。ロンギは一曲内の位置によって,〈中入(なかいり)のロンギ〉〈中心部のロンギ〉〈キリのロンギ〉の3種に分けられるほか,その内容からは〈叙事〉(告げ,祝言など),〈謡い物〉(道行,物尽し),〈問答〉(対面,会話,論義),〈語り〉(物語,独白)の4種に分けられる。このうち最も例の多いのは中入に際して自分の正体を告げるもので,《高砂(たかさご)》《井筒(いづつ)》《野宮(ののみや)》《八島(やしま)》など全体の2割強を占めている。次いで,《通(かよい)小町》《松風》などの中心部にある物尽しが多く本来の論義の形は《鵜飼》《卒都婆(そとば)小町》に見られる程度である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「論義」の意味・わかりやすい解説

論義
ろんぎ

仏教および日本音楽の用語。 (1) 声明 (しょうみょう) において,仏教の教義を明らかにするため一定の形式によって行われる問答の形式をいい,日本では白雉3 (652) 年の『無量寿経』についての恵隠 (えおん) と恵資との論義が最古の例。その後,儀式化され,比叡山の法華八講,奈良の維摩会 (ゆいまえ) およびこれを移した高野山の竪精などが有名。供養,追善のためのもの以外に,僧侶の階級試験のための竪義 (りゅうぎ) などにまで発展した。 (2) 声明の演出形式を取入れた能の謡の小段名。「ロンギ」と書く。能においては,問答体の謡の名称であるが,必ずしも役の会話とは限らず,問答的内容でなくてもその形式によっている部分をいい,普通地謡が問いかける役の代弁をして,最後は地謡で終る。拍子合・平ノリのリズムで,上音を主体とした旋律である。

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百科事典マイペディア 「論義」の意味・わかりやすい解説

論義【ろんぎ】

〈論議〉とも。問答を行って経論の意味を明らかにすること。釈迦滅後に弟子の間で問答が交わされたのが源流で,日本では652年宮中で恵隠が《無量寿経》について行ったのが最初。平安時代,宮中や寺々で法会が盛んになるに従って,それぞれの場で行われ,整備されていった。僧が2人1組で問者(もんじゃ),答者(たっしゃ)となって何組かが討議するのを〈番(つがい)論義〉といい,互いに交替して討議するのを〈向(むこう)論義〉という。→竪義

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世界大百科事典(旧版)内の論義の言及

【問答】より

…問答は宗教の場でも修行法の一つとして用いられた。仏教では〈論義〉と称し,問者と答者(たつしや)の間には一定の様式があり,その形式は能の謡にも影響を与えている。また修験(しゆげん)の徒の問答も芸能に多くとり入れられ,能の《安宅(あたか)》では,現在も金剛流の特殊演出として〈山伏問答〉(〈問答之習〉)がある。…

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