明治憲法下における警察法理論において構成された概念であって、警察目的のために発動される国家統治権をいう。通常、次のように説明される。
〔1〕「警察権ハ国家統治権ノ一部ニシテ、統治権ガ直接ノ社会目的ノ為(ため)ニ人民ニ対スル命令強制ノ権力トシテ発動スル場合ニ於(おい)テ、其(そ)ノ権力ヲ警察権ト称スルモノニ外ナラズ。」(美濃部達吉(みのべたつきち)『行政法撮要』下)
〔2〕「警察なる活動に於て発動される権力を称して警察権といふ。固(もと)より統治権たる権力に外ならぬ。ただ、統治権が警察の目的の為に発動する、といふ点より観(み)て、之(これ)を警察権といふに過ぎない。」(佐々木惣一(そういち)『警察法概論』)
[関根謙一]
警察権の観念は、「警察権の限界」に関する理論との関係においてのみ意味を有する。「警察権の限界」の理論とは、明治憲法下における「警察の概念」の理論を前提としつつ、(1)明治憲法第9条に規定する警察命令制定権の範囲および内容に関する立法上の基準、(2)警察法令における不確定概念の内容を確定するための法解釈上の基準、および、(3)行政上の裁量理論の警察法分野への適用に関する原則としての基準等の機能を有する法原則に関する理論であった。
警察権の限界論は、「警察の概念」論を前提としているため、その内容をなす法原則は、一様ではなく、警察概念の構成方法の差異に基づく概念内容の差異に応じて、その法原則の機能および内容に差異が存する。主として明治憲法第9条の規定の解釈との関連において構成された「学問上の警察の概念」を主張する論者は、憲法第9条に規定する警察命令制定権に関する立法上の原則としての機能に力点を置いて、おおむね、(1)消極目的の原則、(2)警察公共の原則、(3)警察責任の原則、および(4)警察比例の原則の4原則が存在する、と主張した。これに対して、警察の概念につき、1875年(明治8)の行政警察規則を基本として「法制上の概念」を構成すべきであると主張する論者は、実定法上の不確定概念の概念内容を確定するための解釈基準としての機能を認識して、(1)警察の合目的性に基づいて生ずる限界としての「警察に対する私生活の自由の原則」、および、(2)警察の手段の必要性に基づいて生ずる限界としての「警察における比例の原則」の2原則を承認するほかは、警察権の限界に関する原則を否定していた。新憲法の施行に伴い、旧憲法および旧行政警察規則が廃止されたため、これらの規定に基づいて構成されていた「学問上の警察の概念」および「法制上の警察の概念」がいずれもその存在の基礎を失うとともに、これらの概念と結合されていた警察権の限界の理論も、その存在根拠を失い、無意味な理論となった。そして、明治憲法下における警察法学上の概念であった「警察権」の概念も、新憲法下における警察法理論においては、その存在の理由を失い、無意味な概念となっている。
[関根謙一]
なお、第二次世界大戦後の法制においても、「警察権」ということばを用いた特殊な例がある。「日米安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」第17条第10項(a)の規定のなかにある「施設及び区域において警察権を行う権利」との文言がそれである。この場合における「警察権を行う権利」とは、right to policeの訳語であって、「秩序づける権利」ないし「秩序づけのための作用を行う権利」というほどの意味であり、police(動詞)の語を「警察権を行う」と訳したのは、一種の誤訳であろう。またアメリカ憲法学に特有の概念である「ポリス・パワー」を「警察権」と訳すことがあるが、これは、連邦主権に対する州の残余主権として州に留保された権能、または正当な補償を伴う公用収用との対比において、広く公共の衛生、安全、秩序、風紀、労働等の公共の福祉を保護増進するため、正当な補償を行わないで、個人の財産権その他の基本権を制限する政府の権能を意味するものであって、明治憲法下におけるわが国の警察法理論における概念たる「警察権」とは、やや趣(おもむき)を異にする概念である。
[関根謙一]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…そして東京では若干の変遷を経て81年に復活した警視庁が警察をつかさどり,その他の地方では90年以後警察部が警察をつかさどることとなった。こうして戦前の警察制度はほぼ確立されたが,第2次大戦終了後に旧警察法(1947公布)が制定施行されるまで,日本の警察権(警察作用の根拠となる権力)は,すべて国家の権能として行使された。内閣官制のうえで警察とは,保安警察のことをいい,内務大臣がこれを所轄していた。…
※「警察権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新