特定の納税義務者に関する租税上の事実関係を質問,検査(税務調査という)する目的で,被調査者(たとえば納税者)のもとでその協力を得,調査の受忍を求める受忍下命権である。質問検査権が各根拠法に基づき具体的に行使され,調査命令(日本では多く黙示的行政行為の形態をとる)が行われる。調査命令は調査の協力受忍義務を名あて人に課し,かつ調査が名あて人のもとで実施(施行)されるから,調査命令は侵害行政行為の性質をもつ。一般に侵害行政行為は,侵害する対象を明確に特定しなければならない。このため,被調査者の氏名,調査の根拠法令,調査をうける税目,調査対象期間,調査開始予定期日,調査官の氏名,被調査者の告知聴聞権,権利救済方法が調査命令から理解できなければならない(異説もある)。調査の必要性を開示する必要は通常ないが,必要性のない質問検査や必要性をこえてなされた質問検査は違法である。調査命令は原則として調査開始の相当前に告知されるべきである。例外的に,帳簿書類の廃棄等不正行為のおそれが具体的に認められる場合に限って,事前通知なしに税務調査を実施しうる(1973年の最高裁決定)。この場合にも,具体的な質問検査の執行権限を調査官に与える調査命令(行政行為)は不可欠である。調査命令に基づき質問検査をなす執行権限を質問検査権と称する説もある。このように質問検査は事実行為であり,行政調査の一つである。
調査は,国税庁,国税局または税務署の調査権限を有する職員が,(1)納税義務者,(2)支払調書,源泉徴収票等の提出義務者,(3)納税義務者と一定の取引関係にある者またはあった者に対して,質問をなし,またはこれらの者の有する帳簿書類その他の物件について検査することにより行われる。調査は,更正・決定等の課税処分,滞納処分等の目的でのみ行うことができ,統計資料の作成,犯罪捜査あるいは特定団体の秘密探索のためには行うべきではない。質問検査は強制調査ではないが,適法に授権された職員の質問に対して答弁しなかったり,検査を拒否・妨害した者や,検査に関しいつわりの記載をした帳簿書類を提示した者には刑罰が科される。租税行政庁は,特定の税務調査の目的で収集,受領,または作成した記録(資料),たとえば納税申告書を公衆に開示すべきでなく,法律上特段の定めがない限り,他の行政機関に提供すべきでない。
執筆者:木村 弘之亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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