日本大百科全書(ニッポニカ) 「輝タングステン鉱」の意味・わかりやすい解説
輝タングステン鉱
きたんぐすてんこう
tungstenite
二硫化タングステンの鉱物。数少ないW4+の独立鉱物でもある。輝水鉛鉱のタングステン置換体に相当するが、これよりはるかにまれである。これとともに輝水鉛鉱系を構成する。輝水鉛鉱同様、六方型(2H)と三方型(3R)の2種類の多型がある。なお基本的構造は石墨(せきぼく)と同様で層状構造をもつ。自形は六角板状。たいていは塊状あるいは羽毛状物質の集合。原産地アメリカのユタ州エマ鉱山Emma mineはきわめて低温条件で石灰岩を交代してつくられた一種の交代鉱床である。ほかに接触交代鉱床で生成された灰重石(かいじゅうせき)を置換しているものや、イタリアのピエモンテ州クレボラ・ドッソーラCrevola d'Ossolaでは再結晶石灰岩中に微細粒をなすものがあり、最初は石墨と見誤られていた。日本からはまだ報告されていない。
共存鉱物は黄鉄鉱、閃亜鉛鉱(せんあえんこう)、方鉛鉱、鉄重石、灰重石、方解石、石英など。同定は暗鉛灰色の外観、一方向に完全な劈開(へきかい)、比較的低い硬度で触っていると指が黒くなる。比重7.73はこのような外観・形状の鉱物のなかでは異常に大きい。粒が細かければ一見石墨にしか見えない。命名は化学成分による。
[加藤 昭]