農業施設(読み)のうぎょうしせつ

改訂新版 世界大百科事典 「農業施設」の意味・わかりやすい解説

農業施設 (のうぎょうしせつ)

農業生産および生産物の調製や貯蔵に必要とされる施設の総称。大別すると,作物栽培施設,動物飼育施設,加工・調製施設および貯蔵施設などがある。醸造や発酵など一次加工を伴うものは含まれない。いずれの施設も作業の合理化や能率の向上などを目的とするものであるが,設備の建設や運用に多額の経費を要することに問題がある。

園芸作物を栽培するためのガラス室,ビニルハウス,灌水装置,運搬用モノレールおよび各種作物の育苗施設などをさす。ガラス室,温室を利用した栽培は明治の初めから研究されているが,このように管理された環境下における生産活動が著しい増加を示すようになったのは,近年生活レベルの向上とともに園芸生産物の需要が増加し,一方ビニルフィルムなどのプラスチック資材の供給が豊富になってからのことである。

 大部分農作物は,広い土地を基盤にして生産されているが,園芸作物の多くは集約的な栽培管理と季節にとらわれない生産によって高い収益をあげることができるため,園芸作物の栽培ではこのような施設化が著しく発達してきている。これらの施設のうち,ガラス室は固定的であるのに対し,ビニルハウスはパイプ材を利用した簡易構造物であることが多い。ガラス室やビニルハウスでは主として温度を調節しているが,土壌水分や空気湿度を調節する装置などを備えているものもあり,対象とする作物によっては日長時間の調節や日射量の制限ができる装置が備えられている。このように各種の制御機器を利用して,ある種の野菜では播種(はしゆ)から収穫まで人手を必要としない装置が開発されている。

 育苗施設の代表的なものは水稲に関するものである。田植機用の苗を共同で育苗する育苗センターは,1970年ごろから田植機の実用化が急速に進むなかで設置されるようになり,ライスセンターと同じ範囲の地域を対象とする場合もある。

家畜やカイコの飼育,生産に必要とされる諸施設をさす。肉類牛乳,卵などの消費が増加するのに伴って,家畜類の飼養数が増加し,大規模飼育による量産効果を目的とした多頭羽飼育方式が採用されるようになると,これらの施設は単なる畜舎や蚕室であるにとどまらず,各種の装備が施されるようになった。このような装備は乳牛,ブタ,ニワトリなどの飼育施設においてとくに著しい。たとえば,乳牛飼育施設では給飼,搾乳,清掃などのための人手を節約するために,それぞれ給飼装置,搾乳装置および糞尿(ふんによう)処理装置などが設置されている。養鶏の場合でも,鶏舎には給飼や採卵のためのくふうがこらされており,養蚕でも給桑から上蔟(じようぞく)までの一貫した機械作業のできる装置が作られている。このように,飼育面での施設化や大規模化は進歩したけれども,一方においては必要とする飼料を自給できず,外国に依存する経営が多くなっている。とくに都市近郊の畜産は農地から離れ,もっぱら経済効率を重視した飼育専門の業者による経営が行われ,農地に還元できない糞尿は一種の公害を生むに至っている。
畜舎

野菜,果物,穀物などの生産物を,一定の規格に従って選別,分級,包装したり,一次加工や調製を行う施設をさす。野菜や果物の場合には,品質をそろえるとともに,まとまった数量の生産物を市場に供給するために必要とされる選果場や集・出荷場などの諸設備がこれにあたる。たとえば,リンゴ,ナシ,ミカンなどでは,生産物を一定の場所に集めて必要な前処理を施したうえで,所定の規格に従って選別,包装,箱詰にして出荷する。また,イチゴ,トマト,キュウリなどでは,生産農家各自がそれぞれの定められた規格に従って包装,箱詰にしたものを集・出荷場に持ち寄って,産地の商標のもとに市場に出す体制がとられている。

 選果場や集・出荷場は一種の生産協同組合的な性格ももっており,それぞれ単独に,あるいは協同して生産から出荷までを調整する機能をもっている。漬物類は一種の貯蔵品であるが,その加工工程は主として生産地の施設で行われる。米麦の乾燥調製施設としてはライスセンターカントリーエレベーターがある。

農産物の品質が損なわれないように貯蔵するための施設をさす。米麦類のように子実中の水分が少ないものは貯蔵が比較的容易であるが,低温倉庫などで貯蔵すれば食味の低下や害虫の繁殖を抑制でき,さらに長期間保存できる利点がある。野菜や果実類のように水分の多いものでは,呼吸による消耗を防ぐため,貯蔵室内の二酸化炭素濃度を調節できるCA貯蔵が用いられる。この方法は低温貯蔵と結合するとより効果が高まる。また,より長期間の貯蔵には冷凍施設も用いられる。サイロは家畜飼料の貯蔵施設であるが,動物飼育施設の一つとみなすこともできる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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