江戸後期の伝記文学。正編5巻は伴蒿蹊(ばんこうけい)著、1790年(寛政2)刊。続編5巻は三熊花顛(みくまかてん)著、伴蒿蹊補、1798年刊。近世初頭以後、執筆時期までに故人となった畸人(世人に比べて変わっているが人間としてのあり方が天にかなった人の意)約200人の伝記を収める。収載人物は、武士、商人、職人、農民、僧侶(そうりょ)、神職、文学者、学者、さらに下僕、婢女(はしため)、遊女から乞食(こつじき)者などに及び多彩である。たとえば、正編には中江藤樹(とうじゅ)、貝原益軒(かいばらえきけん)、僧鉄眼(てつげん)、小野寺秀和妻、遊女大橋、売茶翁(ばいさおう)、柳沢淇園(きえん)、池大雅(いけのたいが)、祇園梶子(ぎおんかじこ)、続編には石川丈山(じょうざん)、佐川田喜六(さかわだきろく)、僧元政(げんせい)、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)らを載せる。正編は優れた文章で記述され、花顛画の挿絵も風俗考証に基づいたものとして知られる。
[宗政五十緒]
『宗政五十緒校注『近世畸人伝・続近世畸人伝』(1972・平凡社・東洋文庫)』▽『宗政五十緒著「『近世畸人伝』の成立」(『日本近世文苑の研究』所収・1977・未来社)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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… 日本では,戦国時代に織田信長,豊臣秀吉などの個性強烈な人物の出現をみた直後,太田牛一の《信長公記》,小瀬甫庵の《太閤記》と,本格的な個人伝が初めて登物したのは,西欧のルネサンスと相通ずる解放感,また実力主義のあらわれだろう。これらはやがて講談化されて大衆に親しまれたが,江戸時代には,原念斎の《先哲叢談》,伴蒿蹊(ばんこうけい)の《近世畸人伝》なども出,伝記の対象の幅がぐっと広まった。ことに〈畸人〉への着眼には新鮮さがあるが,人間の厚みや複雑さの定着がいま一歩ものたりない。…
※「近世畸人伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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