競技内容がまったく違うフェンシング、水泳、馬術、レーザーラン(射撃+ランニング)の5競技を一人の選手が1日で行い、総合成績で順位を決める複合競技。オリンピック競技の一つ。なお、陸上競技の1種目である「五種競技」については別項目としている。
[加藤博夫・中西利夫 2020年4月17日]
五種競技の名は、すでに紀元前708年の古代オリンピック第18回大会からあり、種目は幅跳び、円盤投げ、短距離競走、やり投げ、レスリングの5種目であった。近代オリンピックの創始者ピエール・ド・クーベルタンが、これを参考にして「近代五種競技」を創設し、1912年の第5回ストックホルム大会からオリンピック競技に加えた。馬術、射撃、フェンシング、水泳、クロスカントリーの5種目で構成され、万能性を競うところから「キング・オブ・スポーツ」ともよばれる。戦場で伝令を命じられた将校の活躍する姿を想定したもので、最初は馬に乗って出発、やがて剣を持ちピストルを撃って相手と戦う。そして川を泳ぎ、最後は森をひたすら走って伝令の役目を果たす、その行動を模したものといわれる。射撃、馬術など競技の性格上、選手は軍人(日本では自衛官)や警察官などが多い。
国際的な組織としては、1948年のオリンピック・ロンドン大会を契機に国際近代五種連合(UIPM:Union Internationale de Pentathlon Moderne)が結成された。日本では1959年(昭和34)3月、陸上、水泳、射撃、フェンシング、馬術の5競技団体によって日本近代五種連合が結成され、ローマ大会(1960)の際に初めて選手を送った。その後、1968年にバイアスロン(クロスカントリー・スキーとライフル射撃を組み合わせた冬季競技)を加え「日本近代五種・バイアスロン連合」と名乗ったが、2011年(平成23)4月にふたたび分離、日本近代五種協会と呼称を変えた。
オリンピックでは当初、男子種目だけであったが、2000年のシドニー大会から女子種目も行われるようになり、日本の女子は2012年のロンドン大会から参加することになった。
競技は長い間、1日1種目ずつ5日間(1920、1984、1992年大会は4日間で実施)にわたって行われてきたが、1996年のアトランタ大会から5種目1日開催に踏み切った。この変更の背景には国際オリンピック委員会(IOC)の競技削減方針があった。当時、IOCはオリンピックの肥大化を防ぐため、テレビ放映などで人気のない競技を削減する方針をたて、その一つとして「5日間も競技を続ける」近代五種競技に注目していた。こうした動きをいち早く察知した国際近代五種連合は、アトランタ大会から急遽(きゅうきょ)1日競技に変更、廃止の危機を逃れたといわれる。
同連合は2009年に従来の射撃とクロスカントリーをあわせ、両種目を交互に繰り返す「コンバインド」を採用し、3種目までの合計点でトップの選手からスタートする方式を導入した。さらに、射撃では環境問題に配慮し、これまでのエアピストルに替えレーザーピストルを使用することにした。2012年のオリンピック・ロンドン大会後にはコンバインドからレーザーランの名称に切り替え、射撃とランニングのセット回数を3回から4回に増やした。2017年のルール改正では、(1)フェンシングランキングラウンド、(2)水泳、(3)フェンシングボーナスラウンド、(4)馬術、(5)レーザーランの試合形式にし、大会がより盛り上がるように順位の入れ替わりが激しくなるようにした。
[加藤博夫・中西利夫 2020年4月17日]
一人の選手が1日で、フェンシング、水泳、フェンシング、馬術、レーザーラン(射撃+ランニング)の順に5種目をこなす。成績、記録を得点に換算して順位を競う。
(1)フェンシングランキングラウンド エペ(剣)による1分間一本勝負の総当り戦。勝率70%を250点とし、1勝あたり6点増減する。
(2)水泳 200メートル自由形のタイムレース。2分30秒を250点とし、1秒につき2点増減する。
(3)フェンシングボーナスラウンド ランキングラウンドの下位選手から順に30秒一本勝負で行い、勝ち残りで選手がかわる。1勝につき1点獲得する。ランキングラウンドとの合計点がフェンシングの得点となる。
(4)馬術 抽選で与えられた馬に乗り、12障害15飛越(ひえつ)(ダブル、トリプル障害を含む)で行われる。障害の高さは最高で120センチメートル。持ち点300点から、拒止(きょし)(飛越できずに止まる)、障害物からの逃避は10点減点、障害落下は7点減点で、2回落馬すると競技中止となる。
(5)レーザーラン フェンシング、水泳、馬術の3種目の合計得点のトップの選手からスタート。合計点の1点差を1秒に換算し、そのタイム差にしたがって2位以下が順に後を追う。射撃はレーザーピストルを使い、10メートル離れた直径約6センチメートルの標的に5回命中させるか、命中しない場合は50秒間撃ち続ける。何発撃ってもよいが射撃が当たらないとランニングに移れないため、他の選手との差が開く。射撃と800メートル走の4セット繰り返し(走行距離は計3200メートル)で行い、ゴール順に最終順位が決定する。長い距離を走った直後に息を整えて精密な射撃動作を行うむずかしさがある。
[中西利夫 2020年4月17日]
馬術,フェンシング,水泳,射撃,ランニングという性質の異なった5種の競技を1日で行い,合計得点で順位を決めるスポーツ。
古代オリンピック(前776-後393)の競技種目の中に五種競技があり,第18回大会(前708)から実施された。それらは競走(短距離),跳躍(幅跳び),円盤投げ,槍投げ,レスリングで,全部を1日で終了することになっていた。これは全競技のうちもっとも華麗であり,また重視されていた種目であった。当時のギリシアでは,肉体的完成とその調和の達成が目的であり,単一競技ではそれが期待できないところから,異種の競技を組み合わせ五種競技が生まれた。
近代オリンピックの創始者クーベルタンは,この五種競技のように,多面的な能力を要求する競技をつくるようスウェーデン軍隊スポーツ連盟に提案し,1912年第5回ストックホルム・オリンピックで初めて近代五種競技が実施された。国際近代五種連合は48年第14回ロンドン・オリンピックを機に結成され,68年国際近代五種バイアスロン連合(UIPMB)と改称された。本部は現在モナコにあり,加盟国数70ヵ国(1996現在)で,アジア地域では日本,韓国,中国,台湾,カザフスタン,キルギスタン,ウズベキスタンが加盟国である。日本では55年に日本近代五種連合が結成され,69年日本近代五種バイアスロン連合(MPBUJ)と改称。第17回ローマ・オリンピック以来各種国際大会に出場している。1961年には国際近代五種連合からとくに進歩顕著な国としてトロフィーが授けられた。女子の競技も年々盛んになり,81年ロンドンで第1回女子近代五種世界選手権大会が開催され,2000年第27回シドニー・オリンピックで正式種目となった。
(1)馬術競技 350~450mのコース上に設置された15個の障害物飛越で行われる。満点を1200点とし,所定時間超過,障害物の落下・拒止などによる減点を差し引く。(2)フェンシング エペ種目の1本勝負。刀身90cmの剣を用い相手のどこを突いても有効。どちらも刺突がなければ双方が負け。出場選手の総当たりで,自分の試合数の70%勝つと1000点。勝数により増減点する。(3)水泳競技 200m自由形。2分30秒に対し1000点,0.1秒ごとに1点が増減される。(4)射撃(ピストル) 射距離10m,口径は4.5mmで,40秒に1発を20回,射撃得点172点を1000点とし,射撃得点1点は競技得点12点とする。(5)ランニング 全長3000mで,登りの合計は0~50mの範囲と定められている。記録10分00秒のとき1000点。0.5秒ごとに得点が2点増減される。
馬術は馬との調和が必要であり,フェンシングでは30~40試合程度の連続的な運動が要求される。射撃では合計20個の標的に賭けなければならない。以上3種目では断続的な運動の処理が要求され,水泳やランニングでは継続性が要求される。それに加えて5種目はお互いの間で相反する影響を及ぼし合う。真の強者のみが耐えうる競技といえよう。
執筆者:松岡 志郎+才藤 浩
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