改訂新版 世界大百科事典 「届出制」の意味・わかりやすい解説
届出制 (とどけいでせい)
行政秩序維持の目的から,国民に,一定の権利・自由の行使に際してあらかじめその旨を行政庁に通知すべき義務を課す制度。食品衛生法16条に基づく食品等の輸入の届出などがその例である。国民の行為それ自体は,なんら禁止されているわけではなく,たんに事前の届出という手続上の規制を受けるにとどまる。これに対して,許可制は,実定法規によって一般的に禁止されている国民の権利・自由の行使について,個別的にその禁止を解除する制度である。届出制の場合には,届出が行政庁によって適法と判断されて受理されれば,それだけで国民は当該行為を適法に行うことが可能である。また,無届で一定の行為を行っても,その行為自体は適法であって刑事罰および行政強制の対象とはならず,届出義務違反という違法が形式的に問題となり,行政上の秩序罰(過料等)を科されるにとどまる。ところで,届出制における届出の受理は,一般に,行政庁のたんなる判断や認識の表示を内容とするいわゆる準法律行為的行政行為であって,そこには行政裁量の余地がなく,適法な届出に対しては,行政庁はその受理を拒むことができないとされている。しかし,届出制であっても,例えば,地方公共団体のいわゆる公安条例に基づく届出のように,届出の受理にあたって各種の条件を付与する権限を公安委員会に与え,その条件に反して実施された集団示威運動などに対して刑事罰を定めているものがある。この場合には,法文上は届出制であっても,その運用のいかんによっては実質的に許可制と異ならない結果となり,公安条例については表現の自由の事前抑制禁止の原則との関係でつとにその問題性が指摘されている。
→許可
執筆者:中島 茂樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報