過・誤(読み)あやまつ

精選版 日本国語大辞典 「過・誤」の意味・読み・例文・類語

あやま・つ【過・誤】

〘他タ四〙
① しそこなう。やり損じる。まちがえる。
※新訳華厳経音義私記(794)「誤錯 二字安夜末覩」
※能因本枕(10C終)一〇〇「げにあやまちてけりとは言はで、口かたうあらがひたる」
② 他のものと見まちがえる。勘違いをする。
古今(905‐914)春上・三四「やど近く梅の花うゑじあぢきなく待つ人のかにあやまたれけり〈よみ人しらず〉」
③ とりきめなどを守らない。言われたとおりにしない。そむく。
※竹取(9C末‐10C初)「蓬莱の玉の枝を、ひとつの所あやまたずもちおはしませり」
道徳や法律に違反する。
(イ) (知らず知らず)道徳や宗教上のきまりなどにそむく。特に男女が過失をする。不義をする。
源氏(1001‐14頃)須磨「しのびしのび、帝(みかど)の御妻(め)さへあやまち給ひて」
(ロ) 法律や規則にそむく。法的な罪を犯す。
※今鏡(1170)二「重くあやまちたる者の、おはします近きあたりにこもりたりければ、うちつつみたりけるに」
⑤ そこなう。損害を与える。
(イ) 健康をそこなう。
※青表紙一本源氏(1001‐14頃)夕霧一夜の御山風にあやまち給へるなやましさななりと」
(ロ) 身を傷つけ、そこなう。殺傷する。殺す。
今昔(1120頃か)二三「此の度我は被錯(あやまたれ)なむと為(す)る、仏神(ぶつじん)助け給へ」
(ハ) 器物をそこなう。破損する。損壊する。
平家(13C前)五「いかに〈略〉聖が乗ったる船をば、あやまたうどはするぞ」
(ニ) 身を破滅させる。人の将来をだめにしてしまう。
徒然草(1331頃)一七二「身をあやまつことは、若き時のしわざなり」

あやまち【過・誤】

〘名〙 (動詞「あやまつ(過)」の連用形の名詞化)
① 物事をやりそこなうこと。
(イ) ふとしたやりそこない。失敗。失策。しくじり。
万葉(8C後)一五・三六八八「家人(いへびと)の 斎(いは)ひ待たねか 正身(ただみ)かも 安夜麻知(アヤマチ)しけむ」
(ロ) (知らず知らずに犯した)まちがったこと。正しくないこと。まちがい。
書紀(720)斉明四年一一月(北野本訓)「天皇、所治(しら)す政事に三の失(アヤマチ)有り」
(ハ) 過失として非難されるべきこと。罪。とが。
※元良親王集(943頃か)「わすらるる身はわれからのあやまちになしてだにこそ思ひたえなめ」
(ニ) 男女間の過失。でき心によって成立した、道徳にはずれた男女関係。
※古今(905‐914)雑上・八八五・詞書「斎院に侍りけるあきらけいこのみこを、母あやまちありといひて、斎院をかへられんとしけるを」
けが負傷きず
※平家(13C前)四「左兵衛尉長谷部信連が候ぞ。近う寄ってあやまちすな」
③ 江戸時代、過失犯を示す法律用語。不念(ふねん)犯罪重過失)、不斗(ふと)の犯罪(軽過失)の両過失犯以外に、不慮の事実も含まれていたが、後期には、不慮の事実によるあやまちは犯罪から除かれた。けが。〔禁令考‐後集・第四・巻三一・寛保元年(1741)〕
[語誌]→「あやまり(誤)」の語誌

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