改訂新版 世界大百科事典 「都市衛生」の意味・わかりやすい解説
都市衛生 (としえいせい)
人口と産業が集中して形成される都市では,密集した生活が生み出す種々の環境悪化が避けられないが,都市衛生は,この都市環境を改善し住民の健康を保持・増進させることを課題としている。都市環境の特性としてあげられるものは,大気汚染,水汚染,騒音,振動(振動公害),住宅難,交通難,社会的ストレスなどである。また大規模な上水道,下水道,廃棄物処理などの施設や用途地域性や都市再開発などの都市計画も都市に特有なものである。自動車排ガスや工場,ビル暖房,清掃工場などからの排煙による大気汚染は,強化されつつある規制や技術的進歩にもかかわらず,まだ根本的な解決に至っていない。水道(上水道)原水の劣化に伴う浄水処理での塩素添加量の増大はトリハロメタン(発癌性が疑われている有機塩素化合物)の増加を結果として伴い,水道水の安全性確保のためには水域の汚染防止がより強く進められなければならないことを示している。交通騒音,近隣騒音は今なお深刻な問題として残っている。大都市が生み出すスラムも,その住民の不健康にとどまらず,インフルエンザなどの感染症の発生,伝播を加速する。ごみの増加を処理する清掃工場建設には,立地や運営をめぐっての困難さがつきまとい,ごみの減量化,分別化などがより急がれている。公園や緑地などの配置も都市衛生上欠くことはできないし,用途地域制の適正な運用も都市環境衛生にとってゆるがせにできない。また都市にとくに強い社会的ストレスから精神衛生も都市衛生の一分野としての位置を占めるべきであろう。
執筆者:溝口 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報