都市のなかの空地や広場,公園や運動場などは,人口が集中し建物が密集すればするほど,いこいや交流の場として重要性を増すが,東京や大阪など日本の大都市では欧米の主要都市と異なり無計画に集住がすすみ,都市空間の重要性に対する配慮が不十分であった。ドイツ語のGrün-fläche,フランス語のespace vertに対応する〈緑地〉の概念は,1933年になって初めて東京緑地計画協議会が発表した規定に登場する。そこでは〈緑地とは本来の目的が空地(くうち)にして,宅地商工業用地及び頻繁なる交通用地の如く建蔽(けんぺい)せられざる永続的のもの〉とされた。この規定では緑地についての二つの基本的事項を含んでいる。第1は本来の目的が建蔽されない空地であること,第2にそれが永続性をもっていることである。ここにいう緑地の中には一般に水面や舗装面も含められるが,建築予定地のような一時的空地は永続性が保証されないため含まれない。また墓地,分区園,教養施設(動・植物園など)や建築敷地内の空地(庭など)は緑地に含められる。
1946年になって特別都市計画法が公布され,これにもとづいて戦災都市に限定して東京など10都市に緑地地域が設けられたが,昭和20~30年代の急激な市街地成長になじまず,新都市計画法制定時(1968)に全面的に廃止された。1960年代の経済高度成長に歩調を合わせて日本の大都市はいっそう巨大化し,都市公害が発生する。あらためて都市環境の保全,自然の緑をとりこんだ都市づくりが叫ばれるようになった。
しかしなお,緑地の概念に問題がないわけではない。例えば,対象が都市域を中心として考えられたものであるため,造成される緑地および保護・保存の対象となる緑地が主なものである。したがって,レクリエーション利用の対象となるもの,都市計画上存在価値のあるものが想定されており,生物資源の保全,生態系の保持といった観点は欠けていること,建築物によっておおわれていないというだけでなく,その土地が生物の正常に生存しうるような生きた土地であることを積極的に意義づけていないこと,さらに緑地は平面的な土地概念にとどまらず立体的にも自然性が確保されるべきこと(例えば日照の確保,飛行機騒音や高圧線がないことなど)が盛りこまれていない,などである。また永続性に関しても,土地所有が私有であっても公用制限が加わっているものは,地域制緑地として行政的には緑地の対象となっているが,私権の制限を厳しくできない点で永続性に問題があるものもある。しかし,私有空間であっても共用性の高いものは,積極的に緑地概念の中に加えられるであろう。以上のことを考慮するとき,緑地の今日的意味は〈生物学的原理の支配的な,永続性をもった非建蔽空間〉ということができる。都市内に存在する緑地としては公共緑地(公園,運動場,広場,緑道,墓園など),自然緑地(河川,湖沼,海浜,樹林など),生産緑地(水田,畑,林地,草地など),公開緑地(社寺境内,公益施設付属園地など),共用緑地(共同住宅園地,工場緑地,学校・企業厚生施設など),専用緑地(個人庭園,試験圃場(ほじよう)など)がある。
→公園
執筆者:井手 久登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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[造園空間の機能]
自然と人間の接触の場である造園空間は,時代とともにそこに多くの機能を付加してきたが,同時にその内容も多様化し,公共性を増してきた。そして都市公園,都市緑地が発生した。都市生活環境全体を安全に快適にすることが,しだいに求められるようになってきたのである。…
※「緑地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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