赤黄色土(読み)せきおうしょくど(英語表記)red-yellow soil

日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤黄色土」の意味・わかりやすい解説

赤黄色土
せきおうしょくど
red-yellow soil

温暖で、雨の多い湿潤亜熱帯気候下に発達する成帯性土壌(気候的土壌帯)で、日本の代表的な土壌の一つである。この土壌には堆積(たいせき)腐植層はほとんどなく、A層は若干の腐植を含む薄い層である。その下のB層はこの土壌を識別するうえでいちばん重要な層で数十センチメートルの厚さをもち、色は遊離酸化鉄により、レンガ色、オレンジ色、黄色の暖色系統で鮮明であるのがこの土壌の特徴である。

 対応する植生は温帯ないし亜熱帯性の森林で、高緯度側に隣接する褐色森林土または黄褐色森林土とともに、ポドゾル化作用ラテライト化作用もほとんど働いていない。

 日本ではこのB層の色で細分され、赤みの強い土壌を赤色土、黄みの強い土壌を黄色土とよぶ。色以外の性質は大変よく似ており、両者は近接して分布していることが多いので、一括して赤黄色土とよばれる。鉄分の多い母岩からは赤色土、少ない母岩からは黄色土が分布し、また、同一地形面では排水の良い所には赤色土、悪い所には黄色土が多い。また、古い地形面上には赤色土、新しい地形面上には黄色土が分布する。

 日本の赤黄色土は愛知県下の東海地方と近畿以西の台地・丘陵・段丘上に連続的分布しており、断片的には九州、北陸、東北、北海道の一部にもみられるが、奄美(あまみ)大島以南の赤黄色土のみが現世の気候で生成したものであり、それ以外の赤黄色土はすべて最終氷期前の間氷期(更新世温暖期)に生成した古土壌の残存物であると断定された。

 赤黄色土は風化作用塩基溶脱作用を強く受けており、腐植含量は低く、塩基や養分は流亡しており、土壌は酸性を呈し、物理性が悪くやせている。しかし多くは平坦(へいたん)な段丘面上に存在し、酸性の矯正、有機物、塩基の補給などの土壌改良と、適切な施肥を行えば植生はかなり改善するので、水田、普通畑、樹園地としてよく利用されており、日本の地目別耕地面積のそれぞれ約5%、7%、24%を占めている。

[小山雄生]

『山根一郎他著『図説 日本の土壌』(1978・朝倉書店)』『農林水産省農蚕園芸局農産課・日本土壌肥料学会監修、土壌保全調査事業全国協議会編『日本の耕地土壌の実態と対策』新訂版(1991・博友社)』『久馬一剛・佐久間敏雄・庄子貞雄・鈴木皓・服部勉・三土正則・和田光史編『土壌の事典』(1993・朝倉書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「赤黄色土」の意味・わかりやすい解説

赤黄色土 (せきおうしょくど)
red-yellow soil

西南日本の低山・丘陵・洪積台地上に広く分布している赤色または黄色の下層土をもつ土壌の分類学的名称で,菅野一郎によって命名(1961)された。下層土の色調のちがいによって赤色土群と黄色土群に細分され,両者の相違は局部的な内部排水の良否や母岩に含まれる含鉄鉱物の量質の差にもとづくものとされた。しかし下層土の色調の相違以外には下記のようなきわめて類似した理化学的性質をもち,しかも赤色土群と黄色土群は地理的に隣接して分布するので,赤黄色土という土壌型として一括された。ほかの分類体系では,赤色土群および黄色土群はそれぞれ赤色土と黄色土として独立した二つの土壌型として扱われる場合もある。一般に腐植含量の少ない(2~3%)厚さ10cm以下の薄い表土の下に,鮮明な赤褐色・橙色・黄色を呈する,粘土含量の高い,亜角塊状構造の発達した,厚さ1~3mの厚い下層土が続き,構造単位の表面に粘土の皮膜が認められる場合が多い。塩基類が強度に溶脱されているためpH4.5~5.5の強酸性反応を示し,肥沃度はきわめて低い。長石,雲母,輝石,角セン石などの風化されやすい一次鉱物はかなり風化され,ケイ酸もかなり溶脱されているが,風化や脱ケイ酸の程度は熱帯のラテライト性土壌にくらべてはるかに弱く,新鮮な一次鉱物がまだかなり含まれている。北アメリカ南東部の赤黄色ポドゾル性土,中国の長江(揚子江)南部,インド,黒海沿岸,オーストラリア東部の赤色土や黄色土は赤黄色土と近縁な土壌である。

 一方,大政正隆らによって新潟県下で赤色土が発見(1955)され,これが過去の地質時代の温暖期に生成した赤色土の遺存物つまり古赤色土である可能性が指摘されて以来,東北から北海道にいたる各地で同様な赤色土が相次いで発見されるようになった。

 そして松井健,加藤芳朗は,西南日本の赤黄色土の赤色土群が中位段丘(下末吉面相当)よりも古い地形面上に典型的に分布し,これをおおう火山灰の降下年代は武蔵野ローム相当層以後のものであることから,西南日本の赤色土群も更新世の温暖期に生成した古赤色土であることを明らかにした(1962)。したがって現在の生物-気候条件下で生成している赤黄色土の分布は奄美大島以南の湿潤亜熱帯に限られ,それ以北の暖帯照葉樹林地域に分布する赤色土群は古赤色土,黄色土群は黄褐色森林土とみなされるようになってきている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の赤黄色土の言及

【赤土】より

…黒土が浸食その他の原因で発達せず,表面から赤土が出ることもあり,千葉県北部から茨城県南部にかけての常総台地はこの種の赤土地帯である。また西南日本から南西諸島にかけて分布する広い赤黄色土を指して赤土ということもある。この土の多くは更新世間氷期の亜熱帯性気候の下で発達したもので,関東以西の洪積台地および丘陵地に主として分布する。…

【土壌型】より

…(4)暖(温)帯の土壌型 暖(温)帯に分布する主要な成帯性土壌型は,暖帯照葉樹林気候下の黄褐色森林土,地中海性気候帯の硬葉樹林下の地中海赤褐色土,半乾燥地中海性気候帯の乾性低木林下の肉桂(につけい)色土などである。 黄褐色森林土は,湿潤冷温帯の褐色森林土と湿潤亜熱帯の赤黄色土との中間に位置し,日本の西南部,中国の長江(揚子江)沿岸から南部,黒海沿岸などのシイやカシを主とする照葉樹林帯に分布している。断面形態は褐色森林土に類似しているが,有機物含量は褐色森林土より少なく,結晶化の進んだ遊離酸化鉄が多いため,下層は明るい黄褐色を呈する。…

※「赤黄色土」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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