損害保険において、同一の被保険利益、同一の危険、同一の保険期間につき複数の保険者と保険契約を締結し、その保険金額の合計額が保険価額を超過した場合をいう。重複保険においては、それぞれの保険契約の保険金額は保険価額を超過していないが、二つ以上の保険者との保険契約を全体としてみると、保険金額の合計額が保険価額を超過している場合であるから、たとえ各契約自体は超過保険でなくとも、これを全部有効とするときは、結果において、超過保険を禁止せんとする法の趣旨に反することになる。そこで商法は、数個の契約を締結したのが同時であれば(同時重複保険)、各保険者は各自の保険金額の割合で責に任じ(按分(あんぶん)主義)、時が違えば(異時重複保険)、原則として、後の保険者は、保険価額から前の保険契約の保険金額を引いた残額につき責に任ずべきもの(優先主義)としている(商法632条・633条)。
商法の規定は、保険金額の合計額が保険価額を超える部分の保険契約が無効であるという前提にたっている。しかし、保険契約の締結時を基準として保険者の保険金支払責任の内容について区別を設けること、超過部分の契約を一律に無効とする商法の規定には疑問がもたれていた。そこで、保険法では商法の規定を全面的に改めた。すなわち、(1)同時異時重複保険の区別を廃止し、(2)保険金額の合計額が保険価額を超過する部分の契約も有効であることを前提として、(3)各保険者は自己の契約により填補(てんぽ)すべき損害額の全部について支払責任を負い(独立責任額全額主義)、(4)保険者のうちの1人が自己の負担部分を超えて保険金を支払ったときは、その超えて支払った部分について他の保険者に対しその負担部分について求償することができる(保険法20条)。
これを数字を用いて示すと次のようになる。保険価額1000万円の保険の目的物について、保険金額が、Y1が1000万円、Y2が600万円、Y3が400万円の保険契約において1000万円の全損が生じたときは、(1)支払うべき保険金の額は、Y1が1000万円、Y2が600万円、Y3が400万円となる。(2)各保険者の負担部分は、Y1が500万円(1000万円×1000万円/2000万円=500万円)、Y2が300万円(1000万円×600万円/2000万円=300万円)、Y3が200万円(1000万円×400万円/2000万円=200万円)となる。(3)Y1が1000万円の保険金を支払ったときは被保険者はもはやY2、Y3に請求することはできず、(4)Y1は自己の負担部分を超えて支払った500万円につき、Y2に300万円(500万円×300万円/500万円=300万円)、Y3に200万円(500万円×200万円/500万円=200万円)を求償することができる。
[金子卓治・坂口光男]
同一の保険の目的に数個の保険をつけ,その保険金額(損害が発生した場合に保険会社が支払うべき金額の最高限度として保険契約者と保険会社の間で定めた金額)が保険価額(被保険者が被る可能性のある損害の最高限度額)を超過する場合を重複保険という。重複保険において各契約を全部そのまま有効とすると,それぞれの保険金額が保険価格の範囲内であっても,合わせれば実際の損害額以上の塡補(てんぽ)が行われ,利得を生じることになる。このため,商法では数個の保険が同時に締結された場合(同時重複保険)には,各保険者の負担額はその各自の保険金額の割合によって定め(商法632条),相次いで締結された場合(異時重複保険)には,前の保険者がまず損害を負担し,もしその負担額が損害の全部を塡補するに足りないときは後の保険者がこれを負担するものとして(633条),その効力に制限を加えている。なお実際の保険契約では同時・異時を問わず,各契約につきそれぞれ他の保険契約がなかったものとして算出した塡補額(独立責任額)の割合によって各保険者の負担額が定められることが多い。
執筆者:高木 秀卓
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