金属元素の原子を相互に結びつけ,固体としての形態を維持している凝集力。この凝集力は主として金属の中を比較的自由に動きまわる伝導電子(自由電子)に起因している。共有結合または共有結合の単結合では,原子の最外殻電子(価電子)は特定の隣り合う原子を直接結びつけているというイメージが強いが,金属結合では最外殻電子は隣接する原子ばかりでなく,固体中のすべての原子を遍歴して,それらの原子を結びつけている。金属の特徴ある諸性質,すなわち高い電気伝導性,熱伝導性,反射率,金属光沢,展・延性,引張強さ,弾性などは,このような電子の存在と関係がある。アルカリ金属の結合は,ほとんどこのような結合なので,結合としては弱く,結合エネルギーは80~160kJ/molである。遷移元素の金属では内殻電子も結合に関与するようになるので,結合力は強くなり,タングステンのように850kJ/molに達するものもある。
執筆者:木下 實
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
金属を形成している原子間の結合.金属中の電子は,特定の原子核に強く結合しているものと,金属全体にわたって比較的自由に動きまわれる電子とに分けることができる.たとえば,Na金属ではNa原子の3s軌道の電子が比較的自由に動きまわる.この電子がのりの役割をして結合力が現れる.結合力のおもなものは,電子と原子核とのクーロン力と,動きやすい電子間の量子力学的な交換力である.金属結合の量子力学的理論は,E. Wigner,F. Seitz,J. Slaterらの努力によって発展し,電子が金属中でとりうるエネルギー帯構造などが明らかになり,金属の種々の性質を定量的に説明できるようになっている.金属中の結合力の生じる原因は,本来,量子力学的なものなので,直感的にはわかりにくいが,L.C. Pauling(ポーリング)は,金属中では多数の共有およびイオン構造が共鳴しているために,強い結合力が発生するとして説明し,金属のいくつかの性質をこの立場から解説した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
金属元素の原子が集まって金属結晶をつくるときの化学結合。単体金属、合金などでみられる。金属の中ではそれぞれの原子に属する原子価電子は、通常の化合物にみられるような隣接する原子との間の特定の化学結合に使われることがなく、その一部は結晶内を自由に運動する自由電子となっているとみなせる。すなわち、金属とは一様な密度の自由電子の海の中に金属原子の陽イオンが浮かんでいるようなものであり、これらの自由電子とイオンとの間の静電引力が全体を結合させている引力となっている。このことから、金属結合は方向性をもたず、いわゆる原子価も考えにくいことになる。
[中原勝儼]
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…もちろん当時はこのような結合形成の機構に対して理論的な裏づけはなかったが,今日では量子力学的に裏づけられ,現在の化学結合概念を築く基礎になっている。
[化学結合の種類]
化学結合には電荷の偏りぐあい,強弱など種々あるが,多くの化学的な事実から帰納的に大別するとイオン結合,共有結合,金属結合が重要である。そのほかに配位結合,水素結合,電荷移動相互作用など,また電気双極子や分極に基づく相互作用もある。…
…原子が集まって固体をつくるときには,原子間に電子のやりとりが起こる。そのやりとりのしかたによって,固体はイオン結合物質,共有結合物質,金属結合物質に分類される。イオン結合物質の典型的な例としては,食塩の主成分である塩化ナトリウムNaClをあげることができる。…
※「金属結合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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