鉱業政策(読み)こうぎょうせいさく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉱業政策」の意味・わかりやすい解説

鉱業政策
こうぎょうせいさく

鉱業に対する国家政策。鉱業は地下資源を対象とする基礎産業であるため、製造工業と異なった特徴がある。たとえば、探査には多くの資本が必要であり、また資本投入をしたからといってかならず発見されるとは限らない、きわめてリスクの多い産業である。また継続して採掘を続けなければならない産業である。一度操業を中止すると、ふたたび稼働する際に膨大な経費がかかるため、変動する金属市況にかかわらず、操業を続けなければならない。また鉱産物の生産費は、地下資源の存在状態によって著しく異なるが、国民経済上あるいは軍事上、一定量の鉱産物の生産は不可欠である。こうした特徴から、世界的にみて、鉱業に対して生産保護政策をとっている国が多い。

[黒岩俊郎]

国内資源の開発

日本には、「国内探鉱長期計画」(1966年度策定)があった。これは、国内鉱山は、もっとも安定した資源の供給源であり、さらに減耗資源であるという特殊性から、今後も長期的かつ積極的に国内鉱物資源の開発を続けなければならないという趣旨から設けられたものである。具体的には、鉱業審議会の答申に基づき、28地域について第一期国内探鉱長期計画が策定され、1966年度(昭和41)から計画的な調査・探鉱が続けられた。第一期計画策定後の探鉱技術の進歩、データの蓄積などにより、数多くの有望地域が出てきたので、大規模・高品位鉱床賦存の可能性の高い25地域について第二期国内探鉱長期計画を策定し、第一期計画と並行して1973年度から調査・探鉱が実施された。

 その方法としては、地質構造を解明するための広い地域を対象とする調査から、狭い地域の探鉱までの過程を、「広域調査―精密調査―企業探鉱」の3段階に分け実施した。これにより、秋田県の餌釣(えづり)鉱床(黒鉱)の発見(1977年開発開始、1979年末出鉱)、鹿児島県菱刈(ひしかり)鉱山(高品位の金銀脈)の発見(1981年に発見、1988年に商業生産開始)、秋田県の温川(ぬるかわ)地区(黒鉱)、北海道の久遠(くどお)地区(金・銀・鉛・亜鉛)、広島県の玖珂(くが)地区(スズ・タングステン)の有望鉱の発見(1982年)ほか、岩手県早池峰(はやちね)地区、佐渡、伊豆地方の金銀鉱山の再調査や探鉱も行われた。

 深海底鉱物資源((1)熱水鉱床=銅・鉛・亜鉛・金・銀を含有、(2)マンガン団塊=マンガン・ニッケル・コバルト・モリブデン・チタン・銅・鉄を含有)の開発も進んでおり、とくに熱水鉱床の存在が推定される太平洋の伊豆・小笠原(おがさわら)海域、沖縄海域の海底2000メートル地帯は、マンガン団塊(海底4000~6000メートルに存在)よりも早く資源開発の対象となるものとして、石油天然ガス・金属鉱物資源機構が1995年(平成7)から調査を実施した。またマンガン団塊研究開発プロジェクトも1982年より1997年まで実施された。

 1978年度からは「金属鉱業緊急融資制度」が発足した。これは、オイル・ショック(1973)後の世界的な不況による銅・亜鉛の国際相場の急速な低下、国内地金(じがね)価格の低迷によって、多くの鉱山の休閉山が相次いだため、国内鉱山の経営の安定化を目ざし、超低利の融資を行うことにより、金属鉱物資源の安定供給の確保を図ることを目的とするものであった。

[黒岩俊郎]

海外資源の輸入と開発

1976年度から「非鉄金属輸入安定化備蓄制度」が発足した。これは、銅、鉛、亜鉛、アルミニウムが日本の産業の基礎物資であり、その安定輸入の確保の重要性を反映するものである。銅・鉛・亜鉛の実施については財団法人金属鉱産物備蓄協会(現、国際鉱物資源開発協力協会JMEC、1991年名称変更)が、アルミニウムについては社団法人軽金属備蓄協会が実施主体となり、備蓄に必要な資金を、金属鉱業事業団(2004年廃止。現、独立行政法人石油天然ガス金属鉱物資源機構=JOGMEC)が政府保証の下に市中銀行から調達し、これを前記協会に低利融資を行っていた。このほか、1982年から希少金属の備蓄制度が発足した。2010年の時点で、当初のニッケル、コバルトなど7鉱種のほか、液晶パネルやLEDに用いられるインジウム、ガリウムを加えた9鉱種を対象に、国家備蓄42日分、民間備蓄18日分、あわせて国内消費量の60日分を備蓄目標にしている。

 資源小国日本は、第二次世界大戦後、大規模な海外資源の探鉱・開発とその輸入に官民一体で取り組んできたが、たとえば、1983年にはブラジル、ペルー、カナダ、オーストラリア、中国(安慶鉱山)などに新鉱床を、カナダのドーン・レーク地区でも高品位鉱床を発見しているものの、資源ナショナリズムの定着した今日、開発を進めるためには、資本出資面での協調、現地製錬等加工度の上昇のほか、道路・港湾などインフラストラクチャーの整備等の要請にこたえる必要がある。また場合によっては、現地政府の国有化政策に応じて、採鉱経営から撤退し、精鉱だけは日本で行うというようなケース(ザイール(現コンゴ民主共和国)のムソシ、キンセンダ両鉱山の場合など)も考慮に入れておかねばならないのが現実である。

[黒岩俊郎]

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