日本大百科全書(ニッポニカ) 「銀行再編」の意味・わかりやすい解説
銀行再編
ぎんこうさいへん
第二次世界大戦後、日本の金融行政は各種規制によって金融システムの安定性を維持するという、過保護体制ないしは護送船団方式をとっていた。そのため一方では金融の効率性(資金配分の効率性、金融機関の経営の効率性発揮による利益の顧客還元)を図ることができなかった。そこで政府は昭和40年代から金融効率化行政、金融自由化行政を推進して金融機関の効率性を高める方向をとってきた。具体的処置として、1968年(昭和43)合併転換法を制定し、金融機関が容易に合併や業務提携をできるようにした。この結果、昭和40年代後半から、金融機関では規模の経済性がもっとも強く求められるようになった。そこで、都市銀行といわれるマネーセンターバンクの合併、地域の密着化と規模経済性を同時に発揮するための地域金融機関の合併ないし業務提携、経営基盤の弱い中小金融機関の一部を大規模金融機関が吸収する合併が生じた。
1971年第一銀行と日本勧業銀行が合併し第一勧業銀行(現、みずほ銀行)を設立したのをはじめとして、1990年(平成2)太陽神戸銀行と三井銀行が合併し太陽神戸三井銀行(のちに、さくら銀行と改称。現、三井住友銀行)、1991年協和銀行と埼玉銀行が合併し協和埼玉銀行(のちに、あさひ銀行と改称。現、りそな銀行、埼玉りそな銀行)、1996年三菱(みつびし)銀行と東京銀行が合併し東京三菱銀行(のちに、三菱東京UFJ銀行となり、2018年三菱UFJ銀行と改称)となるなど、都市銀行の合併が続き、住友銀行(現、三井住友銀行)による平和相互銀行の吸収や、地方銀行や信用金庫どうしの合併も相次いだ。
一方、1991年のバブル経済崩壊以降、銀行は巨額の不良債権を抱えてきたにもかかわらず、損失処理の先送りを繰り返した。しかし1994年の東京協和信用組合と安全信用組合の経営破綻(はたん)を機に経営が行き詰まる金融機関が相次ぐと同時に、当時の大蔵省と金融機関との不明朗な関係も明るみに出た。1995年の住宅金融専門会社の不良債権処理に関しては、公的資金を投入しなければならないところまで追い込まれた。これらの反省から日本版金融ビッグバンが始動、透明なルールと市場原理に基づく金融行政が敷かれることになり、破綻処理および破綻前の早期是正措置の枠組みができあがって護送船団方式は崩壊した。この動きのなかで、1997年に北海道拓殖銀行の経営が破綻、1998年には日本長期信用銀行(現、SBI新生銀行)、日本債券信用銀行(現、あおぞら銀行)が経営に行き詰まった。また大蔵省も、2001年(平成13)1月の中央省庁再編を機に、金融と財政の分離という方針のもと、財務省と内閣府外局の金融庁に分離された。
こうして、自由化で国際的にも国内的にも競争にさらされ始めた銀行界は、生き残りを賭(か)けて再編を加速した。1998年に日本版金融ビッグバンの一環として金融持株会社の設立が解禁、銀行持株会社の下に銀行、証券会社、保険会社などを配した総合的な金融グループを形成することが可能となった。さらに翌1999年に持株会社の創設を円滑にするための株式交換・株式移転制度、2000年には会社分割制度がそれぞれ導入され、環境整備も再編を後押しした。1999年に第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行が事業統合で合意したのが引き金となり、2000年代初頭にかけて大手都市銀行どうしのグループ化、共同金融持株会社の設立が相次ぐこととなった。なお、大手都市銀行の合併、グループ化は以下の通りである。
●みずほフィナンシャルグループ(持株会社名はグループ名と同じ) みずほ銀行(2002年4月第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が分割および合併により、統合・再編されて、みずほ銀行、みずほコーポレート銀行が誕生。2013年7月みずほコーポレート銀行がみずほ銀行を吸収合併し、行名をみずほ銀行に改称)、みずほ信託銀行、日本カストディ銀行。
●三井住友フィナンシャルグループ(持株会社名はグループ名と同じ) 三井住友銀行(2001年4月さくら銀行、住友銀行が合併して誕生。2003年3月わかしお銀行が三井住友銀行を吸収合併し、行名を三井住友銀行に改称)、SMBC信託銀行。
●三菱UFJフィナンシャル・グループ(持株会社名はグループ名と同じ。2005年10月に三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが合併して誕生) 三菱UFJ銀行(2006年1月東京三菱銀行、UFJ銀行が合併して誕生した三菱東京UFJ銀行が改称。なお、UFJ銀行は2002年1月三和銀行、東海銀行の合併によって設立された)、三菱UFJ信託銀行、アユタヤ銀行。
●りそなグループ(持株会社名は、りそなホールディングス) りそな銀行、埼玉りそな銀行(2003年3月に大和(だいわ)銀行とあさひ銀行が分割・合併して誕生)、関西みらい銀行、みなと銀行。
[原 司郎・北井 修]
『高瀬恭介著『新版 金融変革と銀行経営』(1999・日本評論社)』▽『吉田和男著『銀行再編のビジョン』(2000・日本評論社)』▽『向寿一著『メガバンク誕生――金融再編と日本の行方』(2000・日本放送出版協会)』▽『金融持株会社研究会編『日本の金融持株会社』(2001・日本証券経済研究所)』▽『西村吉正著『日本の金融制度改革』(2003・東洋経済新報社)』▽『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第2版(2006・東洋経済新報社)』▽『星岳雄、アニル・カシャップ著、鯉渕賢訳『日本金融システム進化論』(2006・日本経済新聞社)』▽『大村敬一・水上慎士著『金融再生危機の本質――日本型システムに何が欠けているのか』(2007・日本経済新聞出版社)』▽『加野忠著『金融再編』(文春新書)』