銀行国有化(読み)ぎんこうこくゆうか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「銀行国有化」の意味・わかりやすい解説

銀行国有化
ぎんこうこくゆうか

銀行の資本金の全額ないし過半政府の所有に移すこと。この場合、政府がその銀行の経営まで行えば銀行の国営化ということになる。しかし、銀行国有化という場合には通常、銀行を政府が所有するが、経営については政府が直接行わず、しかるべき機関にゆだねる形をいう。社会主義国の多くの銀行や資本主義国の政府金融機関は、国有化されたうえで国営でもある。

 銀行国有化の典型とされるのは、イギリスの労働党政府による中央銀行であるイングランド銀行の国有化(1946)と、フランスの共産党社会党人民共和派連立政権による中央銀行であるフランス銀行およびソシエテ・ジェネラルなど四大預金銀行の国有化(1945)である。イギリスの場合は、イングランド銀行の全株式を政府の所有とし、総裁以下の役員を国王が任命するほか、財務省は同行総裁と協議のうえ公共の利益のために必要と考える指令を同行に与えることができる。フランスの場合も、フランス銀行および四大預金銀行の株式を全額政府所有とし、主要な役員は政府任命となった。また、銀行監督委員会が設けられ、以前の株主総会権限を行使している。なお、四大預金銀行は、国有化されていない他の大銀行と同じく利潤追求の経営を行って互いに競争しており、これらの銀行の債務については、政府は普通の株主のように保有する株式の限度までしか責任を負わない。

 日本では1998年(平成10)、破綻(はたん)ないし破綻寸前であると認定された銀行の株式を政府が取得し特別公的管理を可能にする金融再生法が成立。同法に基づき、18兆円の公的資金が用意され、10月に日本長期信用銀行、12月に日本債券信用銀行が一時国有化された(特別公的管理終了後、日本長期信用銀行は2000年に新生銀行、のちにSBI新生銀行、日本債券信用銀行は2001年にあおぞら銀行と行名を変更し営業を再開)。2000年(平成12)に入ってからも、不良債権問題に依然として苦しんでいた2002年10月、(1)主要銀行の資産査定の厳格化、(2)自己資本の充実、(3)ガバナンスの強化、(4)企業再生を目的とした整理回収機構RCC)の活用、などをうたった金融再生プログラムを金融庁がとりまとめ、不良債権処理を促した。その過程で、翌2003年5月にメガバンクの一角であるりそなホールディングス傘下のりそな銀行が、預金保険機構による株式取得の形で総額1兆9660億円の公的資金を注入され、国が大株主となり実質的に国有化することが決まった。また同年に経営破綻した足利(あしかが)銀行(栃木県)も、地方銀行として初めて一時国有化された。

 近年の海外に目を向けると、2007年央のサブプライムローン問題発覚以降、国有化の動きが相次いだ。とくにヨーロッパでは、2008年2月にイギリス政府が住宅金融大手ノーザン・ロック、同年9月に同じく住宅金融大手ブラッドフォード・アンド・ビングレーを国有化、同年9月にベルギー、オランダ、ルクセンブルクの3か国の政府が、ベルギー最大の金融グループのフォルティスを国有化した。アイスランドでも同年9月にグリトニル銀行を国有化し、翌10月には非常事態宣言を打ち出し、全銀行の国有化へと踏み切った。

[原 司郎・北井 修]

『呉文二・島村高嘉・中島真志著『読本シリーズ 金融読本』第26版(2007・東洋経済新報社)』『全国銀行協会金融調査部編『図説 わが国の銀行』2007年版(2007・財経詳報社)』『滝田洋一著『世界金融危機 開いたパンドラ』(2008・日本経済新聞出版社)』『岩田規久男著『金融危機の経済学』(2009・東洋経済新報社)』『日本経済新聞社編『実録 世界金融危機』(日経ビジネス人文庫)』

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