近年は食生活などの生活習慣が欧米化し、それにより糖尿病や
閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化が徐々に四肢に起こった状態をいいます。その多くは、腹部大動脈から大腿動脈までの範囲に発症します。閉塞性動脈硬化症をもつ患者さんの生命予後はよくなく、症状が重い場合の生存率は悪性新生物(がん)に匹敵する低さです。
高齢者では加齢そのものが動脈硬化の危険因子であり、心臓・脳の病変も考慮しながら、全身的な治療を進める必要があります。
内科的、外科的なさまざまな治療ができない患者さんでは、下肢の切断を余儀なくされる場合もあります。下肢切断に伴う危険性や、切断後の著しい日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下を考えると、早期からの適切な治療と管理が非常に重要です。
表7に重症度分類として有用なフォンテイン分類と、それに対応する治療法を示します。高齢者は複数の病気をもっていることが多いため、しびれ、冷感を訴える場合は糖尿病性神経障害、脳血管障害、整形外科的な病気(
その際、ドプラー聴診器による上・下肢血圧比(ABPI)測定が有用で、ABPI値が0.9以下の場合、血管造影検査で病変の検出感度は95%とされており、ABPI値の低下は診断には非常に重要です。ただし、
●フォンテイン分類Ⅰ、Ⅱ度
この段階では、基本的には薬物治療が主体になります。まず、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症を適切な指導と薬剤で十分にコントロールします。とくに禁煙は絶対に守ってください。
薬剤は、抗血小板薬の投与、抗血小板作用と血管拡張作用を併せもつプロスタグランジン製剤の投与が中心です。高血圧の患者さんでは、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、
重度の
●フォンテイン分類Ⅲ、Ⅳ度
この段階の血行不良が進んだ重症虚血肢では、薬物治療を継続しながら積極的に血管内治療、バイパス手術を考慮します。
重症虚血肢では、痛みのコントロールも極めて重要なポイントです。非ステロイド性抗炎症薬では効果がみられない場合は、麻薬や痛みの神経を遮断する
しかし、血行再建術ができない時や非成功例で、その痛みが非常に強い場合は、下肢切断をせざるをえないのが現状です。TASCに掲載されている重症虚血肢治療のフローチャートを図10に示します。
現在の治療では治りにくい重症虚血肢の患者さんに対しては、血管新生因子を用いた閉塞性動脈硬化症に対する多くの遺伝子治療(再生治療)が、すでに欧米を中心に臨床治験として実施されています。
患部血管付近への内皮細胞増殖因子VEGF、FGFの遺伝子導入による血管新生療法(血管再生療法)ではその効果も報告され、日本でも血管新生因子HGF遺伝子を用いた血管新生療法の臨床研究が行われています。また、
今後、このような先進医療が重症虚血肢の新しい治療法のひとつとなる可能性も出てきており、体への負担が少ない治療法として、とくに高齢者への応用が期待されています。
島本 和明
動脈硬化が原因で、四肢(主に下肢)の血流障害を来すものを閉塞性動脈硬化症といいます。主に50~60歳以降の男性に発症します。
閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。冠動脈疾患の合併が3割の人で、脳血管障害の合併が2割の人で認められます。
糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などの動脈硬化の危険因子をもっている人がかかりやすくなります。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症が急速に増えています。
初期の症状は、下肢の冷感やしびれです。進行すると、ある一定の距離を歩くとふくらはぎや太ももが重くなってきたり、痛みを感じるようになります。ひと休みするとおさまり、再び歩くことができます(
さらに、安静時にも痛みが現れるようになり、靴ずれなどがきっかけで足に潰瘍ができ、時には
ふさがった部位より先の動脈の拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の
まずは、動脈硬化の危険因子である糖尿病、高血圧、脂質異常症の治療を行うことです。また、禁煙はとくに重要です。歩くことにより
寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせます。そのため、靴下、毛布などを使って保温に努めます。入浴も血行の改善に役立ちます。足はいつも清潔にしておきます。爪を切る際は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。
初期の冷感やしびれに対しては、血管を拡げる薬(血管拡張薬)や血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬)を用います。足の痛みが強い場合には、バイパス手術や狭くなった動脈に風船やステント付きのカテーテルを挿入してふくらませる治療を行います。さらに重症になり壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。
閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈同様、心臓や脳の動脈も狭くなったり詰まっている可能性が大きく、全身の健康管理が必要になります。
池田 宇一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
主として四肢の主幹動脈に粥(じゅく)状硬化性変化をおこし、狭窄(きょうさく)あるいは閉塞を生じて末梢(まっしょう)部に種々の虚血症状がみられる疾患で、ASO(arteriosclerosis obliterans)と略称される。虚血症状は、蒼白(そうはく)、冷感、しびれ(フォンテインFontaine重症度分類第Ⅰ期)に始まり、間欠性跛行(はこう)(同第Ⅱ期)、安静時痛、潰瘍(かいよう)(同第Ⅲ期)、壊死(えし)(同第Ⅳ期)に至るものまで種々の程度のものがある。全身の動脈硬化症の一つの現れであるとされている。
治療は、動脈硬化症の一般治療のほかに、薬物療法として抗凝固療法(ワルファリン、ヘパリンなど)や抗血小板療法(アスピリンなど)、血管拡張剤(プロスタグランジンE1など)の投与が行われる。また、外科療法としてバイパス移植などの血行再建術、交感神経節切除術、四肢切断術などがより積極的な治療として行われることもある。
[木村和文]
…また,大きな動脈瘤の場合には,拡張期にも雑音を聴取できることがある。閉塞性動脈硬化症や大動脈炎症候群(高安病)でも,血管に限局的な狭窄がある場合,その部位で収縮期雑音が聴取される。前者では,頸動脈,大腿動脈,腸骨動脈などが好発部位で,大動脈で聴取されることもある。…
※「閉塞性動脈硬化症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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