他人を道具のように利用して自らの犯罪を実行すること。特別の事情のもとでは、このような犯罪の実現が可能となる。たとえば、医師が、患者を毒殺する目的で、事情を知らない看護師に対して、毒薬を混入した注射液を患者に注射させる場合がこれにあたる。直接正犯と間接正犯は対概念である。間接正犯が他人の行為を利用して犯罪を実行するのに対し、直接正犯は行為者自身が直接的に犯罪を実行する場合である。また、間接正犯が自らの犯罪を実行する点において、他人が犯罪を実行するにあたってこれに加担する狭義の共犯、すなわち教唆犯と従犯(幇助犯(ほうじょはん))と区別される(なお、間接正犯を否定し、共犯と解する見解がある)。そこで、間接正犯とは何か、とくに直接正犯や共犯とどのように区別するかは、正犯とは何か、また、正犯と共犯をいかに区別するかという理論的な問題の検討をまたなければならない。なお、犯罪によっては、偽証罪(刑法169条)のように、正犯者自身による直接の行為を要するものがあり、これを自手犯という。自手犯には一般的に間接正犯を認めることはできない。
[名和鐵郎]
間接正犯が成立するためには、第一に、人間はいかなる場合に道具となりうるか(道具性)、第二に、他人を道具として利用する行為が正犯たりうるか(正犯性)、の2点が問題となる。このうち第二点については犯罪類型ごとに個別的な検討を要するので、ここでは第一点について検討する。
(1) 刑法上およそ行為とはいえないような他人の身体活動を利用する類型。たとえば、幼児や高度の精神病者のように善悪の判断がまったくできない者を利用する場合、他人に対して物理的または心理的な強制を加えて身体活動を行わせる場合がこれにあたる。
(2)構成要件該当性を欠く他人の行為を利用する類型。たとえば、構成要件的故意を有しない場合、目的犯における目的や身分犯における身分を欠く他人の行為を利用する場合がこれにあたる。
(3)構成要件には該当するが違法性を欠く他人の行為を利用する類型。たとえば、正当防衛、緊急避難により違法性阻却となる他人の行為を利用する場合がこれにあたる。
(4)構成要件に該当し違法性もあるが、責任が欠ける他人の行為を利用する類型。責任能力や期待可能性がない他人の行為を利用する場合がこれである。ただし、この点について、極端従属性説(かつての通説・判例のように、共犯の成立には、正犯に構成要件に該当する違法で有責な行為が必要とする説)の立場から、共犯の成立を否定し、間接正犯と解する見解があった。しかし、その後、制限従属性説(共犯の成立には、正犯に構成要件に該当する違法な行為があれば足りるとする説)が支配的となるなかで、このような場合に共犯の成立が可能となったため、具体的事案によって、共犯か間接正犯かを判断する必要がある。たとえば、親が14歳未満のわが子に窃盗を命じる場合は教唆犯にあたりうるが、たとえば心理的に強制したり、10歳にも満たない子供を利用する場合には間接正犯(または共同正犯)にあたりうる(判例)。
[名和鐵郎]
他人を道具のように使って犯罪を行うこと。これに対して,みずから犯罪を行った場合を直接正犯という。間接正犯は他人を利用する点では共犯と似た側面をもつが,正犯を利用する教唆犯や,それに加担する従犯(幇助(ほうじよ)犯)とは異なり,あくまでも正犯の一態様であって,みずから直接に手を下した場合とまったく同様に処断される。また,間接正犯は他人を道具のように利用する場合であるので,責任能力のない状態にある自分を道具のように使う〈原因において自由な行為〉とも異なる。間接正犯は多くの犯罪に成立可能であるが,身分犯の場合には成立しえないとする見解が有力である。間接正犯は次のような場合に問題となる。たとえば,医師が看護婦に毒薬を医薬と誤信させて患者に投与させ,これを殺したとき(被利用者に故意がない場合)。幼児や重い精神病者を利用して犯罪を行ったとき(被利用者に責任能力がない場合)。公務員Aが非公務員Bを使ってCから賄賂をもらったときや,行使の目的をもったAが行使の目的をもたないBに通貨を偽造させたとき(〈故意のある道具〉の場合)。司法警察員Aが虚偽の事実を述べて裁判官に逮捕状を出させ,司法巡査BにCを逮捕させたとき(適法行為を利用した場合)。しかし,間接正犯の成立範囲に関しては,共犯の成立範囲の問題ともからんで,見解が一致しているわけではない。さらに,間接正犯の実行の着手時期についても議論があり,大別すると,それを利用者の行為に求める説と被利用者の行為に求める説とに分かれている。
執筆者:大越 義久
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