関八州繫馬(読み)かんはっしゅうつなぎうま

改訂新版 世界大百科事典 「関八州繫馬」の意味・わかりやすい解説

関八州繫馬 (かんはっしゅうつなぎうま)

人形浄瑠璃。時代物。5段。近松門左衛門作。1724年(享保9)1月大坂竹本座初演。三段目を竹本政太夫が語る。平将門の遺児,相馬良門・小蝶の兄妹と,源頼光の弟たち,頼信・頼平の抗争を題材とする。父将門の志をついで,良門・小蝶は天下をうかがい,小蝶は頼光邸に腰元として潜入する。頼光の跡目定めの夜,小蝶にそそのかされて頼平は兄頼信の許嫁詠歌の前を奪って脱出する。良門に詠歌の前を人質にとられ,頼平は良門に味方し朝敵となる。頼信を襲い,捕らえられた頼平は改心を迫られるが,激しい気性の頼平は承服しない。頼平に一度窮地を救われた乳母の子,箕田二郎が,頼平の身替りとなって自害し,頼平に改心を説く。その真情にうたれて,頼平は源氏方に復帰し,四天王とともに葛城山にこもる良門を討つ。近松絶筆となった作品で,最大の長編。三段目の箕田二郎の諫死の悲劇は,身替りの趣向を完成した場面として注目される。小蝶は,のちの《将門》などに登場する滝夜叉姫の先駆となる女性像で,嫉妬に狂う怨霊火中から出現する趣向は当時評判になった。五段目の大文字焼の趣向は,大坂の〈大〉を焼いたとして,その直後の大坂の大火と結びつけられ,上演が忌避されたという。1970年6月東京歌舞伎座で一部舞踊劇として復活上演され,6世中村歌右衛門の小蝶が評判になった。小蝶の怨霊は蜘蛛の精とされ,ここに重点をおいた復活であった。明治期の改作に,福地桜痴の《相馬平氏二代譚》がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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