際物(読み)キワモノ

デジタル大辞泉 「際物」の意味・読み・例文・類語

きわ‐もの〔きは‐〕【際物】

ある時季のまぎわにだけ売れる品物正月羽子板、3月のひな人形、5月の鯉のぼりなど。「際物商い」
一時的な流行をあてこんで作った商品。
演劇・映画・演芸小説などで、実際にあった事件や流行をただちに取り入れて題材としたもの。「際物小説」
[補説]23は、多く、安直で出来が悪いものという意味合いで用いられる。また、「きわどい物」と解釈し、下品なもの、悪趣味なものの意で用いられることがある。

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精選版 日本国語大辞典 「際物」の意味・読み・例文・類語

きわ‐ものきは‥【際物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 必要な季節のまぎわになって売り出される一時限りの品物。三月の雛人形、五月の鯉幟(こいのぼり)など。
    1. [初出の実例]「際(きワ)物の熊手を仕込む落葉時」(出典:雑俳・歌羅衣(1834‐44)四)
  3. 一時的に人々の興味をひくような物。一時限りのもの。
    1. [初出の実例]「死に瀕したる人の著なればとて新聞にてほめちぎりしため忽ち際物として流行し六版七版に及ぶ」(出典:仰臥漫録(1901‐02)〈正岡子規〉二)
  4. 実際にあった事件や流行をただちに取り入れて脚色した戯曲、小説、演芸、映画などの類。
    1. [初出の実例]「抑々際物とは、現在事件にして極めて人気に投ずる材料を云ふに於ては、説者も異論なかるべし」(出典:所謂戦争文学を排す(1904)〈平出修〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「際物」の意味・わかりやすい解説

際物
きわもの

芸能用語。本来は季節に応じたものの意味だが、多く使われるのは演劇、映画などで、社会に発生した事件や流行をすぐ取り入れて脚色した作品をいう。1678年(延宝6)1月、大坂新町・扇屋の遊女夕霧(ゆうぎり)の死を翌2月から荒木与次兵衛座で脚色上演した歌舞伎(かぶき)狂言『夕霧名残(なごり)の正月』がその始まりとされ、当時は「一夜漬(いちやづけ)狂言」ともいった。近松門左衛門の世話浄瑠璃(じょうるり)には、お初徳兵衛心中事件を3日のうちに脚色したという『曽根崎(そねざき)心中』をはじめ、際物ながら秀作が多い。その後もニュースを喜ぶ大衆嗜好(しこう)に応じ、浄瑠璃や歌舞伎に多くつくられ、講談でも「際物読み」と称して流行した。今日では一般用語になり、芸能界、出版界などで広く使われるが、普通「際物」というと拙速とみなされ、芸術的に軽視される傾向が強い。

[松井俊諭]

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世界大百科事典(旧版)内の際物の言及

【際物師】より

…際物を販売する商人。際物は節物(せつもつ)のことで時節時節のものをいう。…

※「際物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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