最新 心理学事典 「集団生産性」の解説
しゅうだんせいさんせい
集団生産性
group productivity
集団生産性に関する研究は,集団生産性を高める条件を明らかにする取り組みと,集団による課題遂行過程に働く成員の心理特性を明らかにする取り組みとに大別できる。
前者の取り組みは,リーダーシップleadershipや目標設定,あるいはチームワークの研究とのつながりが深い。リーダーシップの効果に関する研究はとくに活発に行なわれてきた。具体的には,集団目標の達成を指向する態度と,成員同士の円満な人間関係を指向する態度の両方を併せもつことが,集団生産性を高める効果的なリーダー行動であることを指摘する行動アプローチをはじめとして,集団のおかれた状況を視野に入れて状況即応的に対処することを重視するコンティンジェンシー(条件即応)・アプローチcontingency approachや,環境の変化に適応して積極的に集団に創造的変革を生み出すリーダーシップに焦点を当てた理論など,膨大な研究成果を蓄積してきた。
他方,後者の取り組みは,社会的促進あるいは社会的手抜きの研究として結実している。他者と一緒に集団で課題遂行する方が個人単独で課題遂行するよりも,個人の生産性は高まる現象を社会的促進social facilitationとよぶ。トリプレットTriplett,N.(1898)による自転車競技を題材にした実験に始まり,ザイアンスZajonc,R.B.(1968)による単純存在効果の研究が基盤となって発展した。ザイアンスは,単に他者が存在するだけで個人は影響を受け,覚醒水準が高まり一定の興奮状態になって,習熟した課題や単純課題であれば,パフォーマンスが促進されると主張した。ただし,未習熟課題や複雑な課題の場合には,逆に緊張の高まりにつながり,パフォーマンスを阻害することもありうる。課題特性によって,社会的促進と社会的抑制の相反する位相が現われることに注意が必要である。
一方,他者と一緒に集団状況で課題遂行するとき,個人単独で課題遂行するときよりも個人のパフォーマンスが低下してしまう現象を社会的手抜きsocial loafingとよぶ。リンゲルマンRingelmann,M.(1913)による綱引き課題を用いた実験に始まり,ラタネLatané,B.ら(1979)が行なった実験室実験によって概念が広く認知された。集団による課題遂行場面では,個々の成員は他の成員の存在に精神的に依存し,責任性の拡散状態に陥ることが,社会的手抜きの基底をなすメカニズムとされる。スタイナーSteiner,I.D.(1972)は,社会的手抜きの影響に加えて,集団で課題遂行する過程においては,成員間でコミュニケーションを取って努力の調整を行なわねばならないことがパフォーマンスの低下をもたらす影響をも包摂して,プロセスロスprocess lossの概念を提示している。 →集団
〔山口 裕幸〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報