Aが弁済すべき義務を負っていないのに,義務の履行としてBに給付した場合には,Bは,法律上の原因なくしてAの損失において利得したことになり,これを不当利得として返還すべき義務を負う(民法703条以下)。これを広義の非債弁済という。しかし,弁済者Aが,義務のないことを知っていながら義務の履行として弁済した場合には,不合理で無意味なことをしたのであるから,同人は法による保護に値しないことになり,その返還請求は認められない(705条)。これを,狭義の非債弁済という。
しかしまた,義務のないことを知っていて弁済した場合でも,必ずしも不合理,無意味とはいえず,かえって同情すべき事情があることもある。たとえば,受領者から脅かされて給付したとか,訴えられるおそれがあったため後日返還請求することを留保して,とりあえず弁済したような場合である。これらの場合には,弁済者の返還請求が認められる。
なお,他人の義務を自分の義務と誤信して弁済した場合にも,受領者に対して返還請求することができる。しかし,受領者が適法に弁済を受けたと信じてその証書を毀滅したり,担保を放棄したり,時効で権利を失ったときには,もはや同人に対して返還請求することはできず,義務を免れた本来の義務者に求償しなければならない,とされている(707条)。
執筆者:好美 清光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には、債務がないのに弁済がなされた場合をいい、弁済者は不当利得として返還請求をなしうるのが原則である(民法703条)。しかし、弁済者が債務のないことを知りつつ弁済した場合には、弁済者は不合理な行為をしたのであるから、返還請求権を認めてこれを保護する必要がない。これを狭義の非債弁済という(同法705条)。狭義の非債弁済として返還請求が否定されるのは、債務が存在しないにもかかわらず、弁済として給付がなされ、しかも、弁済者が、弁済の当時、債務が存在しないことを知りつつこれをなした場合である。ただし、債務の不存在を知りつつ弁済したことに、合理的な理由(たとえば、自分の知らない公正証書により強制執行されるおそれがあって、自由意思によらずに給付した場合とか、賃料不払いを口実に明渡請求訴訟されることを恐れてそのような留保付きで支払った場合など)があれば、返還請求を否定されない。
[淡路剛久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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