精選版 日本国語大辞典 「靡」の意味・読み・例文・類語
なびき【靡】
① なびくこと。ゆれうごくこと。
※万葉(8C後)二・一九九「捧げたる 幡(はた)の靡(なびき)は」
② 幟(のぼり)の指物(さしもの)の名。棹(さお)の先方を細く作ってしなわせ、風などになびくようにしたもの。数本合わせて棹の根をとめ、先が開くようにもする。幟の数から、二本靡・三本靡・五本靡などがある。〔武用弁略(安政再板)(1856)〕

③ 従うこと。人の言いなりになること。
※俳諧・遠舟千句附(1680)「御靡(ナビ)きあまり歓喜の両袖に」
④ 上のことばからの響きぐあい。
※花鏡(1424)音習道之事「てにはの字の正は、云流す言葉の吟のなひきによりて」
なび・く【靡】
[1] 〘自カ五(四)〙
① 風、水などの力により、それに流されるような形になる。
[2] 〘他カ下二〙 ⇒なびける(靡)
なび・ける【靡】
〘他カ下一〙 なび・く 〘他カ下二〙
① なびく状態にさせる。なびかす。
※万葉(8C後)一一・二五三二「おほかたは誰(た)が見むかともぬばたまの我が黒髪を靡(なびけ)てをらむ」
※仙伝抄(1445)「一なげしの花の事。なげしのごとく、そばへ花をなびけて」
② 自分の意に従わせる。服従させる。また、異性の思いを自分に向けさせる。
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「九国をなびけんとするに、誰かはさうなく随ふべき」
※浮世草子・好色一代女(1686)三「しのびしのびに旦那をなびけて」
[補注]万葉集の訓は推定されたもので、中古以前に確例は見当たらない。
な・ぶ【靡】
※万葉(8C後)一七・四〇一六「婦負(めひ)の野のすすき押し奈倍(ナベ)降る雪に宿借る今日しかなしく思ほゆ」
[語誌](1)同じ方向に揃うという意味的共通性から見て、「なぶ(並)」と同源と考えられる。
(2)上代における仮名書きの確例は、「おしなぶ」「しきなぶ」など、複合動詞の連用形に限られる。その点、用法の固定化がうかがえ、同義語「なびく」より古形かという。
(3)現代語には、文章語として、複合動詞「おしなぶ」に助詞「て」が付いて副詞化した「おしなべて」が残っている。
(2)上代における仮名書きの確例は、「おしなぶ」「しきなぶ」など、複合動詞の連用形に限られる。その点、用法の固定化がうかがえ、同義語「なびく」より古形かという。
(3)現代語には、文章語として、複合動詞「おしなぶ」に助詞「て」が付いて副詞化した「おしなべて」が残っている。
なびか・す【靡】
〘他サ四〙
① なびくようにする。なびいたままにする。なびかせる。
※万葉(8C後)一五・三七〇五「竹敷の玉藻奈婢可之(ナビカシ)漕ぎ出なむ君が御船をいつとか待たむ」
※平家(13C前)一「吹風の草木をなびかすが如し」
② 相手の心などをこちらの思うようにする。従わせる。服従させる。支配する。
※源氏(1001‐14頃)賢木「時の有職と、天の下をなひかし給へる」
び【靡】
〘名〙 むだづかいをすること。浪費すること。ぜいたく。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈総生寛〉十三「殊に其奢(おごり)を極め靡(ビ)を極むるの物品」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報