頻度の高い遺伝性疾患

六訂版 家庭医学大全科 「頻度の高い遺伝性疾患」の解説

頻度の高い遺伝性疾患
(遺伝的要因による疾患)

 ひとつの遺伝子異常で発症する単一遺伝子病メンデル遺伝病)のなかで、頻度の高いものを表にまとめました(表7)。

常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)遺伝

 常染色体優性遺伝を示すアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)欠損症は日本人では頻度が高く、42%程度の人が片方あるいは両方の染色体に遺伝子異常をもっています。

 この異常があるとアルコール分解産物である有害なアセトアルデヒトをすみやかに分解できないため、少量のアルコールでも顔が赤くなり、お酒に弱い体質になりますが、病気とはいえません。両方の染色体に異常がある人も7%程度いて、お酒をほとんど飲めない体質です。ALDH2欠損症は人種差が大きく、黄色人種だけにあり、白人黒人ではみられません。

 家族性高コレステロール血症は、いわゆる悪玉コレステロールLDLコレステロール)を細胞内に取り込んで分解する効率が正常の人よりも悪いので、血中の悪玉コレステロール値が高くなります。通常、食事に注意するだけでは不十分で、コレステロールを下げる薬をのむ必要があります。治療をしないと動脈硬化が若いころから進み、心筋梗塞(しんきんこうそく)などを起こしやすくなります。

 骨形成不全症では、骨の強度を保つために必要なコラーゲン遺伝子に異常があるため、骨折しやすくなります。遺伝子異常がコラーゲン遺伝子のどの部分にあるかで症状は大きく違い、生まれてすぐ亡くなるほど重症な場合から、他の人よりも少し骨折しやすい程度までさまざまです。重症型の場合は、突然変異が原因であることがほとんどです。

 生まれつきの骨の病気のなかでは最も多いのですが、それでも1万人に2.2人程度です。

常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)遺伝

 常染色体劣性遺伝病は人種的に日本人には少ないといわれています。たとえば、新生児期に病気の有無を調べるフェニルケトン尿症などは白人の10分の1程度です。

 先天性副腎過形成症は比較的頻度の高い疾患ですが、それでも白人集団の3分の1程度です。これは副腎皮質ホルモン合成に関係する遺伝子の異常で、ホルモン不足のために治療をしなければ命に関わることがあります。そのため、この疾患も新生児期に病気の有無を調べます。

・X連鎖劣性(れんされっせい)遺伝

 X連鎖劣性遺伝病は、通常、母親保因者男の子が生まれた場合、2分の1の確率で伝わり、発症します。

 色覚異常の大部分は青や赤の色の区別がつきにくいという程度で、病気とはいえません。男性の20人に1人に異常があるといわれています。最近では、不便を感じないような色を使うなど、社会を変えていくべきだとの意見が主流になってきました。

 グルコース6リン酸脱水素酵素欠損症(だっすいそこうそけっそんしょう)は、アフリカ系アメリカ人の男性では10%が異常をもっていますが、日本人でも1000人に1人とかなり高頻度です。

 デュシェンヌ型筋ジストロフィーは進行性の筋力低下が起こる病気です。母親が保因者であることが多いのですが、突然変異で起こる場合もかなりあります。

 血友病(けつゆうびょう)では血液凝固因子を体内で作ることができないので、注射などで外部から補給し続けなければなりません。AとBは別の遺伝子ですが、両方ともX染色体上にあります。患者さんの子どもが男の子であれば異常は伝わりませんが、女の子には100%伝わります。しかし、女性の場合は発症しないので保因者になります。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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