日本大百科全書(ニッポニカ) 「飲料製造業」の意味・わかりやすい解説
飲料製造業
いんりょうせいぞうぎょう
飲料には、発酵乳・乳酸菌飲料、緑茶・紅茶・コーヒー・炭酸飲料・果実飲料などの嗜好(しこう)飲料(清涼飲料)、清酒・蒸留酒・ウイスキー・ビール・ワインなどの酒類飲料などがある。
[保志 恂・加瀬良明]
発酵乳・乳酸菌飲料
ヨーグルトや「カルピス」「ヤクルト」に代表されるこの種の製品は、脱脂乳に純粋培養した乳酸菌を接種し、菌の増殖に適当な温度を与えることで得られた糊(のり)状のもの、またはこれを砕いて液状にしたもので、発酵の前後に砂糖、香料などを添加する。乳酸菌の応用が日本に入ったのは明治中期以降のことであるが、味が日本人の嗜好に適したため定着し、今日では日本を代表する飲料となっている。昭和30年代から40年代中ごろまで順調に発展してきた発酵乳・乳酸菌飲料市場は、1973年(昭和48)のオイル・ショック後、厳しいマイナス成長に直面し、業界の整理統合が進んだ。1990年代以降においては乳酸菌飲料がおおむね停滞的な状況にあるものの、発酵乳市場はプレーンヨーグルトを中心に順調な伸びを維持している。
[保志 恂・加瀬良明]
嗜好飲料
緑茶、紅茶、コーヒー、炭酸飲料、果実飲料などがあるが、そのうち後の二つについて触れよう。炭酸飲料の日本における歴史は古く、ラムネやサイダーは明治初期からすでに製造販売され、生産量や種類も年々増加してきている。かつてはこの産業は夏季にのみ製造販売する季節産業という性格から、多種少量生産を行い、中小零細企業が中心であったが、1960年(昭和35)以降「コカ・コーラ」、「ペプシ・コーラ」の市場進出、国内大手企業のサイダー部門への参入などにより、中小零細企業の淘汰(とうた)が急速に進み、大企業主導型となっている。果実飲料は一般に果汁を使用した飲料のことであるが、内容的には無果汁に近いものから、天然果汁のような果汁含有率100%のものまで多岐にわたっている。わが国の果実飲料は、第二次世界大戦後アメリカから移入されたソフトドリンクを国産化したことから始まり、清涼飲料としての果汁飲料がミカン果汁をベースに圧倒的比率を占めてきた。1970~80年代は、天然果汁、果汁含有率の高い「ネクター」や果粒入り果実飲料などが台頭して消費量を伸ばしてきたが、1992年(平成4)オレンジ果汁の輸入自由化等の後は海外産の原料果汁への依存度がきわめて高くなってきている。なお、90年代以降においては健康志向を反映して「オロナミンC」「ファイブミニ」等の栄養飲料、「ポカリスエット」「アクエリアス」等のスポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの消費も増大している。
[保志 恂・加瀬良明]
酒類飲料
アルコールを含有する致酔飲料を総称して酒類というが、(1)発酵過程だけでつくられるワイン、清酒、ビールなどの醸造酒、(2)アルコール含有液を加熱し蒸気を冷却して濃度の高い酒とする焼酎(しょうちゅう)、泡盛(あわもり)、ウイスキー、ウォツカ、ラムなどの蒸留酒、(3)醸造酒、蒸留酒を土台として甘味質、香料などを加えて飲みやすくした白酒、梅酒、薬味酒、甘味果実酒、合成清酒、みりん、リキュールなどの再生酒がある。第二次世界大戦後は食生活の変化に伴い、日本酒中心から洋酒類志向へと嗜好の変化がおこり、清酒需要が停滞し、ビール消費は生(なま)ビール生産も加えて著しく伸び、ウイスキー、ワインなども年々消費を伸ばしてきた。1994年(平成6)の酒税法改定では、いわゆる「地ビール」の生産が可能となり、急増した業者数も200社を超えている。また、ビールよりも麦芽使用割合が少ないことで酒税が安いビール様の雑酒、「発泡酒」の消費も急増している。酒類を製造する工場は、ビール(「地ビール」を除く)、甲種焼酎、ウイスキーなどは寡占型大企業であり、他は在来型の年間生産量1000キロリットル未満の中小企業が多いが、酒類市場をめぐり輸入酒類も含めて厳しい競争を展開している。
[保志 恂・加瀬良明]