モンゴルの伝統的な弦楽器。2弦の胡弓であるが,棹の頭部(糸蔵の上)に馬頭の彫刻が施されているのでこの名がある。馬琴とも呼ばれるが,これはモンゴル語のモリン・フールmorin khuurの直訳であり,馬頭琴はモリン・トルゴイ・ホーレmorin tolgoi holeの逐語訳である。この胡弓のサイズは個々の楽器によってまちまちであるが,通常,棹の長さは105~110cmで台形の共鳴胴を貫通している。胴(横上辺約17cm,横下辺約27cm,縦30cm,厚さ約6cm)には両面とも革が張ってあり,表面には彩色した模様が描かれることが多い。これに馬の尾毛を束ねた弦がかけられる。この胡弓はやはり馬の尾毛を張った弓で擦奏されるが,走り尽くし疲労困憊した馬の尾が妙なる音を奏でるという。そしてこの言い伝えは馬頭琴の起源にかかわる伝説に由来していると考えられる。すなわち,この楽器はもと天空を駆ける星の王子の愛馬であったが,地上にやって来た星の王子を恋した羊飼いの娘のたくらみによって,その翼を切り取られ,星へ帰る途中で力尽きて砂漠に墜落し息絶える。悲しんだ王子が愛馬をかき抱き,その屍(しかばね)をさすると,王子の涙に触れた馬のなきがらは馬頭琴に変身したという。したがって,この胡弓の転軫(てんじん)(糸巻)を(馬の)耳(チフchikhe)と呼ぶ。
執筆者:柘植 元一
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文字どおり頂上に馬の頭部の彫刻を配したモンゴル民族の二弦擦奏弦鳴楽器。内蒙古(もうこ)ではモリン・トルゴイ・ホーレmorin tolgoi hole、外蒙古ではモリン・フールmorin xuur、ヒル・フールkhil khuurなどとよばれる。竜をあしらったもの、頭部になにもついていないものもある。弦や弓も馬の毛を束ねたものを利用し、愛馬の死を悼んでつくったなど起源伝説も馬にまつわるものが多い。台形木製の胴体の表側に馬皮または薄板を張って響きを豊かにしている。棹(さお)には細長い指板(ネック)があり、指板に対して弦を押し付けはせず、弦の上を中空で指先が止まったり滑ったりして音階音や滑音を奏する。語物(かたりもの)音楽でリズム感を与えたり、馬の走る音、いななきを模倣して伴奏ないし間奏を歌い手自身が奏する。また、オルティンドー(長い節回しの歌)やボグンドー(短い歌)の伴奏に使われることも多くなってきた。近年はチェロの作りを取り入れて改作し、ヨーロッパ系の音楽の演奏にも利用されている。
[山口 修]
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