骨端症、骨壊死、関節症ほか〈総論〉

六訂版 家庭医学大全科 の解説

骨端症、骨壊死、関節症ほか〈総論〉

(運動器系の病気(外傷を含む))

 体を構成する細胞は、主に血液から酸素と栄養をえています。一般に、血管が何らかの異常で機能しなくなった場合は、ほかの血管網からの血流で補われるような構造(バイパス機能)をもっています。

 しかし、いくつかの組織では、このような血管のバイパス機能が作用しにくくなっています。たとえば、脳組織はバイパス機能がはたらきにくく、脳卒中のあとに麻痺が残りやすいことが知られています。関節内の骨組織もバイパス機能がはたらきにくい部位です。

 関節組織は、骨の表面に軟骨(なんこつ)と呼ばれるクッション構造をもち、低い摩擦(まさつ)で動くようになっています。関節内の骨の関節側は、血管が入っていないツルツルの軟骨におおわれているため、バイパスによる血流が確保しにくい構造になっています。そのため、この部位に血流障害が起こると、バイパス機能による血液の補充が妨げられて骨組織の壊死(えし)(組織が死ぬこと)が発生し、骨の強度が著しく低下することがあります。このような病態は、大人の大腿骨頭(だいたいこっとう)大腿骨の骨盤側、球形のため骨頭と呼ばれる)に発生しやすく、大腿骨頭壊死症として知られています。

 また、成長期の関節軟骨組織は、骨の成長に関係して特殊な血行の仕組みをもっています。骨の長さの成長は骨の両端部で起こりますが、この小児期の成長軟骨を含む部位(骨端軟骨(こつたんなんこつ)もしくは骨端核(こつたんかく)と呼ぶ)には、血流障害に続いて成長軟骨部に障害が生じることがあります。このような骨の成長に関係する骨端軟骨部に生じる血行障害は骨端症(こったんしょう)と総称され、特定の部位に発生しやすいことが知られています。

骨端症(こったんしょう)

 骨端症は、小児期に主に血流障害によって成長軟骨層がダメージを受け、変形を生じるために疼痛(とうつう)が生じる病態です。また、症状の発現には繰り返す外傷やストレスの集中などの要因も関与するといわれています。X線像では、いくつかの発生しやすい特別の部位に特徴的な破壊像を示します。あまり激しくない疼痛と破壊的なX線像から、かつては小児結核(けっかく)による病変と考えられた時代もありましたが、著しい破壊病変と思われた場合でも驚異的に回復する場合が多いこともわかってきました。このように、骨端症は成長の一時期に特定の部位に発生し、経過とともによく改善する場合が大部分を占めることが特徴です。

 その後、病態がさらに明らかになるにつれて、各部位の骨端症には、最初に医学誌に報告した人の名前がつけられるようになりました。現在では骨端症は、パンナー病ペルテス病ケーラー病フライバーグ病など、最初の報告者の名前がつけられています。また、骨端症と考えられていた病態が、異なる病態であることが判明したものもあります。

 骨端症は、血流障害によって組織が壊死に陥って破壊され、関節部に炎症を起こして痛みや関節の動きが制限されるなどの症状が出ます。経過は比較的ゆっくりしており、悪化、改善に年単位の期間を要します。

 人間の組織修復能力は、小児期は大人に比べて強く、小児期の骨端症はある一定の時期まで破壊が進行したのち修復に向かいます。悪化する時期にどこまで破壊が進むかにより、症状の違いや後遺障害の程度が異なります。ほとんど障害が残らない患者さんから、ある程度の障害を残す患者さんまで程度はさまざまです。

 疾患の経過を注意深く観察することにより、最終的な障害がある程度予測可能になります。ペルテス病などで治療を行わない場合に障害が残ると予測される際には、入院して特殊なギプスや装具や手術的治療を行う場合があります。

 最終的な障害が残らないと予測される場合も多く、このような場合では痛い時のみ自宅安静をとるだけで大部分支障なく治癒します。医師から的確な診断と最終的な見込みについてアドバイスを受けることが重要です。

骨壊死(こつえし)

 同様に、血行障害により関節近傍の骨が脆弱化し変形破壊される病変は骨壊死と呼ばれ、骨の成長との関係はなく大部分が大人に発生します。小児と異なって成長に伴う大きな修復能力が欠如しているため、破壊された病変部はそのまま残存します。

 血行障害の部分が小さいと軽い症状ですみますが、病変が大きいと骨関節の破壊が進んで大きな障害が残ります。障害が大きい場合には、大がかりな手術的治療が必要となる場合もあります。

関節症(かんせつしょう)

 関節の骨表面にあるクッションの役割をもつ軟骨が障害・破壊される病態を関節症と呼びます。関節症は、一般には老化現象により進行しますが、骨端症や骨壊死などさまざまな原因で関節に変形が生じた場合には、早期に軟骨が障害を受けて破壊されることがあります。完全に軟骨が消失した場合(末期関節症)には、人工関節手術を行う場合があります。

 最後に以上の特徴をまとめておきます。

・骨端症

 ①主に、成長期小児の関節近傍の成長軟骨部の血行障害により発生し、成長軟骨部が破壊される。②一定時間をかけて成長軟骨の破壊が進行し、X線像で特徴的な像を示す。③痛みや関節の動きの制限が出現するが、リウマチや感染、化膿性の病気に比べて激烈ではない。④途中で必ず修復時期に入り、骨成長期の間は修復が継続する。

・骨壊死

 ①大人に発生し、関節軟骨直下の骨が血流障害を起こして脆弱化(ぜいじゃくか)し、破壊される。②小児の骨端症と異なり、修復反応が少なく破壊は進行性である。

・関節症

 クッションである関節軟骨が障害を受けると関節症と呼ばれる病態になり、痛みや運動制限を生じる。主に老化現象により生じるが、骨端症や骨壊死による変形が残存、進行した場合でも関節症に移行することがある。

柳本繁

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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