江戸中期の天文学者。寛政(かんせい)の改暦で主役を務めた。大坂に生まれ、通称作左衛門、字(あざな)は子春、号は東岡または梅軒。聡明(そうめい)にして、数理に精密、推歩(すいほ)の技に長じ、家資窮迫の間にあって公務の余暇をもって研鑽(けんさん)し、その才を伸ばした。麻田剛立(ごうりゅう)に入門、当時日本で希有(けう)の珍籍『暦象考成後編』を入手し、研鑽するに及んで、比肩する者のないほどの実力をもつに至った。1795年(寛政7)改暦の業に召されて天文方となり、1797年その大任を果たした。改暦後は惑星の研究観測に従事し、『新修五星法』を著し、1803年(享和3)『ラランデ天文書』のオランダ語訳書を入手すると病身を押してその訳解に従ったが、『暦書管見』11冊、表8冊を残して、翌年41歳で没した。浅草源空寺(東京都台東(たいとう)区上野七丁目)に葬る。弟子の伊能忠敬(いのうただたか)に日本全土測量の大事業の端緒を開いた。『新考日食三法』をはじめ交食に関するもの、『増修消長法』『気朔(きさく)簡法』など暦学に関する多くの著述がある。
[渡辺敏夫]
至時は字を子春といい,梅軒,あるいは東岡と号した。15歳のとき,大坂定番井上筑後守組同心であった父の跡を継いだ。早くより算学,暦学を好み,後々まで相ともに学び励まし合った間(はざま)重富と相前後して麻田剛立の門に入った。24歳のころである。剛立,重富とともに至時は当時もっとも進んだ暦学書である《暦象考成後編》を研究し,麻田派の傑出した学力は改暦に強い関心をもっていた幕府要路の耳に達した。寛政7年(1795)3月,暦学御用のため出府を命ぜられ江戸浅草の暦局に入り,同年11月天文方に登用され新規に100俵五人扶持を加えられた。従来の30俵二人扶持に比べたいへんな出世であった。翌8年改暦御用をおおせつけられ先任天文方の吉田秀升,山路徳風とともに上京し,1年あまりで新暦法を完成した。この暦法は至時と,至時とともに出府した間重富の2人の学力によってまとめられたもので,同10年より施行され寛政暦と呼ばれた。寛政暦の完成後は日月食の計算法,五星法(惑星の運動論)と里差(経度差)の研究に意を用い,里差については伊能忠敬の全国測量の発足,支援に力をいたした。1803年(享和3),フランス人J.ラランド著の《天文書》のオランダ訳本を若年寄堀田摂津守から貸与され一覧した至時は,これこそ長年求めていたものと,このラランド研究に寝食を忘れて没頭し病身の命を縮め,翌年1月没した。著書には《海中舟道考》《諳厄利亜(アンゲリア)暦考》《ラランデ暦書管見》その他がある。
執筆者:内田 正男
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(中山茂)
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1764.11.30~1804.1.5
江戸後期の天文学者。字は子春,号は東岡・梅軒,通称作左衛門。大坂定番同心の長男。高橋景保(かげやす)の父。1778年(安永7)父の跡を継ぐ。算学を松岡能一に学び,87年(天明7)麻田剛立(ごうりゅう)に入門し,間(はざま)重富とともに天文学を学ぶ。97年(寛政9)寛政暦を完成する。伊能忠敬を指導して日本全国測量事業を始めた。フランス人ラランド著の天文書を調査し,「ラランデ暦書管見」を残す。
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…没後の1755年(宝暦5)に採用された宝暦暦は,貞享暦の定数を少し変えただけの暦法で,施行後まもなくから幕府は次の改暦を考えねばならなかった。やがて大坂の麻田一門の名声が高くなると,幕府は95年麻田門下の俊秀高橋至時を天文方に登用し,同門の間(はざま)重富に協力させて改暦に当たらせた。至時は西洋天文学の漢訳本である《暦象考成後編》を参酌し,97年に早くも新暦案を完成,《暦法新書》8巻とし,土御門泰栄に献じた。…
※「高橋至時」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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