川口松太郎作の短編小説。《オール読物》1934年10月号に発表。翌年発表の小説《風流深川唄》などとあわせて第1回直木賞を受賞した作者の出世作である。新内(しんない)の若手の名手・名コンビといわれた三味線ひき鶴八と太夫の鶴次郎は先代鶴賀(つるが)鶴八の娘と弟子で,芸熱心からけんかが絶えなかったが,互いに好意をもっていた。ところがようやく結婚という直前にふとしたことから誤解が生じ,けんか別れをし,鶴八は料理屋へ嫁ぐ。鶴次郎は酒におぼれ芸もすさむ。3年後番頭の仲介でふたりはコンビを復活し,名人会に出演する。鶴八が夫と別れても芸の道に戻ろうとするのを知って,鶴次郎は心にもない悪態をついて鶴八をつきはなす。大正中期の東京下町の人情を背景に,愛しあいながら結ばれない芸人の悲哀を描いた〈芸道物〉の代表作。作者の脚色で38年1月,明治座で花柳章太郎・水谷八重子主演により初演,以後新派の当り狂言となった。同年成瀬巳喜男監督により,長谷川一夫・山田五十鈴で映画化もされ人気を博した。
執筆者:藤木 宏幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
川口松太郎の新派戯曲。原作は1934年(昭和9)10月号の『オール読物』に載った小説で、翌年第1回の直木賞を受賞したものを作者自ら脚色し、38年1月東京・明治座初演。新内の太夫(たゆう)鶴次郎と三味線弾きの鶴八は相愛の仲だが、ささいなことから喧嘩(けんか)別れをし、鶴八は料亭の女房に納まる。名人会でふたたびコンビを組むと鶴八は芸道復帰を思い立つが、鶴次郎は女の幸せを思ってわざと芸のうえの喧嘩をふっかけて鶴八の夢を打ち砕き、放浪の生活に戻る。江戸気質(かたぎ)の新内語りという材料のおもしろさ、テンポのある芝居運びなどが大衆の心をとらえ、花柳(はなやぎ)章太郎と水谷八重子のコンビの代表的な演目であった。
[土岐迪子]
『『鶴八鶴次郎』(中公文庫)』
…同期の小津安二郎ほどの厳密さはないが,固定画面を多用し,日本建築の廊下や縁側にたたずむ人物たちから抑制の利いた抒情性を引き出したその空間感覚によって世界的に評価されるに至る。《妻よ薔薇のやうに》(1935)での女性像(千葉早智子)の鮮やかさは,《鶴八鶴次郎》(1938)の山田五十鈴,《めし》(1951)の原節子などにうけつがれ,《稲妻》(1952)に始まる高峰秀子とのコンビを決定的なものにする。林芙美子原作の《浮雲》(1955。…
…水谷八重子と共演した男役にも傑作が多い。当り役としては《滝の白糸》《遊女夕霧》《歌行灯》《鶴八鶴次郎》《佃(つくだ)の渡し》等の演目の主役があり,花柳十種を自選した。趣味ゆたかで衣装のくふうは天才的だった。…
※「鶴八鶴次郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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