キリシタン版(読み)きりしたんばん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キリシタン版」の意味・わかりやすい解説

キリシタン版
きりしたんばん

九州三侯(大友、有馬、大村)による天正(てんしょう)遣欧使節の舶載した西洋印刷機および同種機を用いて、日本イエズス会が1591年(天正19)ごろから約20年間に、おもに九州の各地で印刷した図書・出版物(加津佐版、天草版、長崎版など)をいう。またその前後に同機をもってゴアマカオで出版した4種も同属とみなされる。キリシタン版は、1980年ベニス発見の2点を加え、現在約31種、75点が世界に、1点か数点ずつ散存する。内容別には、(1)キリスト教教義、信心録など。例、『ドチリナ・キリシタン』(キリスト教の教義。日本文字、ローマ字各2種)など。(2)言語関係書。例、『ラテン文典』(E・アルバレス著。天草、1594年刊)など。(3)教養書。例、『伊曽保(いそほ)物語』(いそっぷ物語。ローマ字日本文、天草、1593年刊)、『倭漢(わかん)朗詠集』(日本文字、1600年刊)などの3種に分けられる。文字はローマ字、片仮名平仮名、漢字で、邦語や外国語を使用して、邦人および外国人の双方に役だて伝道の便に供した。なかに1点『こんてむつすむん地』(1610年京都版)は日本式印刷を利用した木活字版である。遺品の多くは、大英図書館オックスフォード大学バチカン図書館、日本天理図書館、東洋文庫北京(ペキン)北堂などに蔵せられる。キリシタン版は1611~14年(慶長16~19)ごろ姿を消すが、本邦書籍史上に和洋混体のユニークな新味を出した。近年専門家解説の下に全種の複製本が完成し、新しい観点から比較研究がなされている。

[富永牧太]

『天理図書館編『きりしたん版の研究』(1973・天理大学出版部)』『土井忠生著『吉利支丹文献考』(1963・三省堂)』『Johannes LauresKirishitan Bunko, 3ed. (1957, Sophia University, Tokyo)』『新村出・柊源一編『吉利支丹文学集』上下(1957、60・朝日新聞社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キリシタン版」の意味・わかりやすい解説

キリシタン版
キリシタンばん

日本で 16世紀末から 17世紀初めにかけて活版印刷で出版された欧文,和文の書物。キリスト教伝来以来,イエズス会士は伝道事業の一部として教義書,語学書などの出版をはかったが,天正 18 (1590) 年,A.バリニャーノが初めて活版印刷機を輸入すると,島原半島の加津佐で日本最初の活版印刷が行われ,以後,天草,長崎,京都などで出版が行われた。『どちりな・きりしたん』などの教義書をはじめ,辞典,文学書,『伊曾保物語』,さらに『平家物語』などの古典にまで及んだ。世界各国に残る版本の数は欧文本5種,和文 (ローマ字を含む) 本 20種,その他総計 32種に及ぶ。慶長 18 (1613) 年の禁教以後,迫害により印刷機をマニラに移し,日本国内での出版活動は消滅した。 (→キリシタン物 )  

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