鼠小紋東君新形(読み)ねずみこもんはるのしんがた

改訂新版 世界大百科事典 「鼠小紋東君新形」の意味・わかりやすい解説

鼠小紋東君新形 (ねずみこもんはるのしんがた)

歌舞伎狂言世話物。5幕。別名題《御誂鼠小紋》など。通称鼠小僧》。河竹黙阿弥作。1857年(安政4)1月江戸市村座初演配役は鼠小僧次郎吉こと稲葉幸蔵を4世市川小団次,幸蔵養母お熊・早瀬弥十郎・次郎太夫坂東亀蔵,与之助を河原崎権十郎(のちの9世市川団十郎),お高・松山・若草を4世尾上菊五郎,新助・伊之助を5世坂東彦三郎,与惣兵衛を2世浅尾与六,蜆売り三吉を13世市村羽左衛門(のちの5世尾上菊五郎)など。1832年(天保3)に処刑された鼠小僧の実説をふまえた2世松林(しようりん)伯円の講談をもとに脚色された。義賊鼠小僧こと稲葉幸蔵は,刀屋新助と芸者お元を助けるために稲毛邸から百両を盗み与えたが,極印付の金ゆえにかえって新助は捕らえられ,一方,鼠小僧を手引きした件で辻番与惣兵衛も拷問にあう。易者に化けた鼠小僧は,蜆売り三吉や稲毛の若党からすべての事情をきいて自首する。稲毛屋敷の辻番で,鼠小僧が実父とも知らず与惣兵衛に対面する場や,易者に身をやつした滑川稲葉幸蔵宅の場の小団次のリアルな演技が好評を得て,100余日のロングランになった。またこのとき14歳の,のちの5世菊五郎が実地にその生態を観察して演じた蜆売り三吉が,菊五郎の出世芸となった。以後はこの三幕目の〈辻番所〉と四幕目の〈幸蔵内〉だけが上演される。ちなみに伯円は泥棒伯円黙阿弥白浪作者,小団次は白浪役者と当時もてはやされた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鼠小紋東君新形」の意味・わかりやすい解説

鼠小紋東君新形
ねずみこもんはるのしんがた

歌舞伎狂言。通称『鼠小僧』。5幕。2世河竹新七 (→河竹黙阿弥 ) 作。安政4 (1857) 年江戸市村座初演。江戸時代後期に大名屋敷専門に盗みを働いた盗賊鼠小僧次郎吉を主人公とした白浪物で,100日余も興行を続ける大当りをとった。初演は4世市川小団次。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「鼠小紋東君新形」の解説

鼠小紋東君新形
ねずみこもん はるのしんがた

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
河竹新七(2代)
初演
安政4.1(江戸・市村座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の鼠小紋東君新形の言及

【鼠小僧次郎吉】より

…江戸末期の諸大名奥向きの放漫と庶民の困窮を描出し,義賊がぬけめなく立ち回る点に享受者の共感があった。2世松林(しようりん)伯円は〈泥棒伯円〉と呼ばれるほど白浪物(しらなみもの)講釈を得意とし,その演目の一つが《緑林(みどりがはやし)五漢録――鼠小僧》で,これをもとに河竹黙阿弥が脚色した歌舞伎が《鼠小紋東君新形(ねずみこもんはるのしんがた)》である。その初演の年,同名題の合巻を紅英堂から出版(柳水亭種清編,2世歌川国貞画),市井の小盗賊を英雄視したところに幕末の時代相が反映されている。…

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