裂肛(読み)レッコウ(その他表記)Anal Fissure

家庭医学館 「裂肛」の解説

れっこうきれじさけじ【裂肛(切れ痔/裂け痔) Anal Fissure】

[どんな病気か]
 歯状線(しじょうせん)(直腸(ちょくちょう)と肛門管(こうもんかん)の境界)より下の、肛門の出口に近い部分にできる裂創(れっそう)および潰瘍(かいよう)です。女性に多く、また若い人にも多いのが特徴です。
 通常は排便時にかたい便が通過して切れることでおこりますが、別の病気が原因の場合もあります(後述)。
 この部分は痛覚が敏感なため、排便時はもちろん、排便後に強い痛みが続き、しばしば肛門出血をともないます。肛門の後壁(こうへき)は尾骨(びこつ)と腱(けん)で固定されていてあまり伸び縮みしないため、この部分にできることが多いのですが、女性では肛門前壁(こうもんぜんぺき)にできることもあります。
 裂肛をおこす病気には、クローン病ベーチェット病、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)、白血病(はっけつびょう)などがあります。
■急性裂肛(きゅうせいれっこう)
 かたい便の物理的な力で肛門が裂創を負ってできる裂肛です。
■慢性裂肛(まんせいれっこう)
 同じ場所に何度も急性裂肛や感染がおこったりして、周囲が土手のように盛り上がり、かたくなって治りにくくなったものです。
 土手のような部分が肛門の外側に突出した部分を見張(みは)り疣(いぼ)、肛門の内側に盛り上がった部分を肥大乳頭(ひだいにゅうとう)といい、合わせて脱出型裂肛(だっしゅつがたれっこう)と呼びます。慢性の炎症による瘢痕はんこん)のため肛門が狭くなったものは狭窄型裂肛(きょうさくがたれっこう)といいます。
[症状]
 排便時の肛門痛と少量の出血がおもな症状です。痛みは排便後も長く持続することがあります。
 痛みのために肛門括約筋(こうもんかつやくきん)がけいれん時のようにしまって肛門が狭くなり、そこにかたい便がむりやり通ると、なおさら痛みが増すという悪循環ができます。出血はふつうは少ないのですが、併発している痔核(じかく)の部分が切れると、多量に出血することがあります。
[治療]
 保存的治療と手術治療があります。保存的治療は、緩下剤(かんげざい)や整腸剤によって便のかたさを調整する方法です。下痢になると悪化するので注意が必要です。
 局所麻酔薬(きょくしょますいやく)や抗炎症薬入りの坐薬(ざやく)や軟膏(なんこう)を使用し、局所を清潔に保ち、排便後は肛門部の温浴(おんよく)を行ないます。
 慢性化した裂肛には手術が必要になります。軽度の場合は肛門括約筋の一部を切断する(側方皮下内括約筋切断術(そくほうひかないかつやくきんせつだんじゅつ))だけで治りますが、病変が著しい場合はさらに裂肛切除術(れっこうせつじょじゅつ)が必要です。
 狭窄が著しいときは、切除した部分に皮膚移植(皮膚弁移動術(ひふべんいどうじゅつ))します。

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改訂新版 世界大百科事典 「裂肛」の意味・わかりやすい解説

裂肛 (れっこう)
anal fissure

肛門管(直腸下部から肛門縁にかけての部分)に縦方向の亀裂が入った状態をいう。俗に〈きれ痔〉とも称するが,医学的には〈痔疾〉とは別の病気である。原因は明らかではないが,硬便による過剰な肛門の伸展,慢性下痢,下剤の長期連用や分娩時の外傷などがあげられる。通常は肛門後壁中央部に発生するが,前壁中央部にも発生する。症状は疼痛と出血である。疼痛はきわめて強く,切られるような,裂けるような,あるいは焼けるような痛みである。出血は鮮紅色で量は少なく,一般にトイレットペーパーにつく程度である。これらは排便時に起こり,疼痛は排便後に軽減するのが普通であるが,その後に肛門括約筋の痙攣(けいれん)が起こると,いっそう強い疼痛が残ることがある。このため排便に対する恐怖心も加わり,規則的な排便習慣が乱されることになる。裂肛は慢性化する傾向があり,長年にわたって悪化と軽快を繰り返し,その結果,楕円形の潰瘍を形成するようになる。これが肛門潰瘍anal ulcerである。治療は必要に応じて温座浴を行い,麻酔作用のある軟膏を用いる。加えて適切な食事と規則正しい排便習慣をつくることがたいせつである。肛門潰瘍では潰瘍を切除した後,正常粘膜でこれをおおう手術が行われる。

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内科学 第10版 「裂肛」の解説

裂肛(肛門部疾患)

(3)裂肛(anal fissure)
定義・概念
 肛門上皮の外傷.急性期は上皮の浅い裂創にとどまるが,慢性化すると筋層に至る潰瘍となり周辺に肛門ポリープ,皮膚痔を伴い肛門狭窄をきたす.
原因
 硬い便の排出や急激な下痢により生じた肛門上皮の外傷.内括約筋の過緊張状態(肛門管静止圧の上昇)や肛門上皮の血流の乏しい虚血状態の関与も指摘されている(Schoutenら, 1996).
臨床症状
 排便時と,その後に続く疼痛が特徴的であり,出血は少量.
 慢性化すると潰瘍状となり,その肛門側に皮膚の突起(skin tag),口側に肛門ポリープを伴い,肛門狭窄をきたし排便障害を生じる.
診断
 問診で排便に伴う痛みがあり出血がわずかならば裂肛病変の存在を疑い,肛門縁を牽引しての視診,肛門鏡診を行う.[岩垂純一]
■文献
Parks AG: Pathogenesis and treatment of fistula-in-ano. Br Med J, 1: 463-469, 1961.
Schouten WR, Briel JW, et al: Ischaemic nature of anal fissure. Br J Surg, 83: 63-65, 1996.
Thomson WHF: The nature of hemorrhoids. Br J Surg, 62: 542-552, 1975.

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世界大百科事典(旧版)内の裂肛の言及

【痔】より

…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…

【傷】より

…皮膚の表層だけが伸展によって亀裂を生じたときは伸展創と呼び,交通事故の際などに主として鼠径部(そけいぶ)付近にみられる。肛門にみられる裂肛は硬くて大きい便が排出されるときに,肛門の過度の伸展により生じた裂創である。吐血,下血を主訴とするマロリー=ワイス症候群Mallory‐Weiss syndromeは,頻回の嘔吐を繰り返すことによる胃内圧亢進のために食道下端部から胃の噴門部の粘膜に生じた裂創である。…

【痔】より

…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…

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