日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯周疾患」の意味・わかりやすい解説
歯周疾患
ししゅうしっかん
歯周疾患とは、歯肉、歯槽骨、歯根膜およびセメント質などの歯周組織におこる病気の総称で歯周病ともよばれ、歯肉炎と歯周炎に大別される。ただし歯肉の腫瘍(しゅよう)とか、むし歯や外傷に継発する根尖(こんせん)部の歯周組織の病気(慢性および急性根尖性歯周炎)は含めない。
歯周疾患は、歯肉炎、歯周炎、咬合(こうごう)性外傷、特殊な歯周疾患などに分類される。
〔1〕歯肉炎 一般に単純性歯肉炎とよばれるもので、歯肉に限局した慢性の炎症性病変である。臨床症状は歯肉の発赤、腫脹(しゅちょう)および歯肉出血などである。歯肉炎の原因は歯垢および歯石である。口腔(こうくう)清掃が不十分であると歯または歯肉の表面に歯垢が堆積(たいせき)し、歯垢細菌またはその産生物の影響によって、歯肉に限局した炎症性病変、すなわち歯肉炎がおこる。
〔2〕歯周炎 一般に辺縁性歯周炎とよばれるもので、歯肉炎に対する適切な治療処置をしないで放置すると、歯と歯肉の境界部の溝(歯肉溝)に歯周炎の原因菌である歯周病原細菌が感染して歯周炎を継発する。病変は歯根膜、歯槽骨などの深部の歯周組織に波及・拡大して、それらの組織を破壊する。現在歯周病原細菌として約20種類が指摘されており、歯周炎は複数の細菌による混合感染症と考えられている。臨床症状は歯肉の発赤、腫脹、歯肉出血、歯周ポケット(歯と歯肉との間の溝)の形成、排膿(はいのう)、歯の動揺、歯槽骨の吸収などである。なお、歯周炎は、その発症時期、歯周組織破壊過程の特徴、病態の相異などによって前思春期性歯周炎、若年性歯周炎、急速進行性歯周炎および成人性歯周炎などに分類されている。歯周炎や歯肉炎は心筋梗塞、脳梗塞、動脈硬化を発症する危険を高めることがわかってきている。
〔3〕咬合性外傷 なんらかの原因で、過度の咬合力が特定の歯に加えられた場合に、歯周組織におこる外傷をいう。歯槽骨の破壊によって歯の支持力が低下するため、歯の動揺がおこる。
〔4〕特殊な歯周疾患 原因または病態が特殊であることから、特殊な歯周疾患として取り扱われているものである。(1)慢性剥離(はくり)性歯肉炎 歯肉症ともいわれ、病変部は赤く腫脹し、表面は滑沢で、水疱(すいほう)を形成することもある。また、上皮が剥離するために刺激に対して敏感で、疼痛(とうつう)を伴う。(2)急性壊死(えし)性潰瘍(かいよう)性歯肉炎 歯肉の潰瘍形成と壊死を伴う急性の病変で、出血しやすく、激しい疼痛を訴える。(3)歯肉肥大 抗てんかん剤(ヒダントイン系)およびニフェジピン(カルシウム拮抗(きっこう)剤)の長期服用者にみられる副作用の一つで、歯肉の増殖性肥大が認められる。
[加藤伊八]
『石川純編『歯周治療学』第2版(1992・医歯薬出版)』