製造業者や問屋または請負業者(仲介人)から原材料や機械、器具などの提供を受けて、単独または家族の補助者とともに製造、加工を行うことによって加工賃を得ている家内労働のなかの主要な形態をいう。厚生労働省の定義によると、「内職的家内労働者」とは、主婦や老人など世帯主以外の家族で、世帯主とは別に家計補助のため家事の合間に家内労働に従事する者をいい、「専業的家内労働者」(家内労働を世帯主が本業として行い、それによって生計を維持している者)および「副業的家内労働者」(ほかに本業を有する世帯主が単独で、あるいは家族とともに、本業の合間に家内労働を行う者)と区別している。
日本の内職の歴史は江戸時代にまでさかのぼる。資本主義確立期当時の内職の姿は、横山源之助著『日本之下層社会』(1899)において、「巻煙草(たばこ)、マッチの箱張、ラムプの笠(かさ)張、貿易品亀(かめ)の子、足袋(たび)縫、鼻緒縫、編物、蝋燭(ろうそく)の心巻き、団扇(うちわ)張」などが「貧民の内職」として描かれている。
労働省(現厚生労働省)の調査では、高度成長過程で内職従事者は増大し続け、1972年(昭和47)には164万人とピークに達した。石油危機(オイル・ショック)以降の不況のもとで減少に転じ、1980年代以降、国内製造業の海外流出も加わって内職従事者は急速に減少している(「家内労働調査」によれば1985年106万人、1995年51万人、2000年31万人、2005年19万人、2009年14万人)。内職従事者の9割は女性が占めている。従来の内職は繊維、電気機器、雑貨などの業種に多かったが、1990年代以降、情報通信機器を活用した在宅就労(設計・製図・デザイン、文書入力、データ入力、ライター・翻訳、イラストレーター、ホームページ作成など)が増加している。厚生労働省はこれらの在宅就労を従来の家内労働(内職)と区別して扱っている。
内職的家内労働を規制する法律として家内労働法(昭和45年法律第60号)が制定され、委託条件を明確にするため、家内労働手帳の交付、工賃支払いの確保、最低工賃の決定、安全衛生改善措置、家内労働審議会設置などが定められている。
[伍賀一道]
『寺園成章著『家内労働法の解説』(1981・労務行政研究所)』▽『神尾京子著『家内労働の世界』(2007・学習の友社)』▽『横山源之助著『日本の下層社会』(岩波文庫)』
主として主婦が家計補助の目的で行う家内労働(委託を受けて自宅で製造加工を行い工賃を得る労働)をいう。内職は,ささやかな単純作業が多いが,総体としては,社会的生産の中でけっして少なくない位置を占めている。さまざまな工業製品は,完成品を見る限りでは,内職の形跡に気づきにくいが,実は驚くほど多様な製品の生産過程に内職は関与している。そして,〈親会社→一次下請け→数次下請け→内職〉という,生産工程のヒエラルヒーの底辺に位置している。労働者の家内労働についての調査(1983)によれば,全国の家内労働者数129万人のうち主婦などの内職的家内労働者110万人で,30代,40代の主婦が圧倒的多数である。業種としては繊維製品,繊維工業,電気機器,雑貨が多い。1時間当りの工賃は女子パートタイム労働者の賃金の6割程度である。
内職については低工賃(出来高払いで単価が安く,設備や材料の一部が受託者負担の場合もある。納期がきびしく,一方,工賃の支払が滞る場合もある),就労の不安定性(仕事量や期間が一定せず,身分保障や福利厚生もない)などの問題点が指摘されている。しかし資格や特殊技能を持たず,乳幼児や老親をかかえて自宅を離れられない中高年の主婦が,現金収入を求めるとき,現実には内職しかない。手作業を安く委託できるという委託者側の理由もあり,内職よりパートタイム労働への志向が強まっているとはいうものの,内職は根強く残っていくことだろう。
→家内労働 →パートタイマー
執筆者:船橋 恵子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…学生が学業のかたわら一時的に行う仕事を指すことが多いが,最近では主婦がパートタイマーとして一時的・季節的に就労する場合でもアルバイトとよぶ。学生のアルバイトという用語は,その近代的イメージから第2次大戦後の経済生活が迫(ひつぱく)していた混乱期に流行しはじめ一般化したものである(それ以前には〈内職〉とよばれていた)。すなわち,敗戦直後の経済的貧困のため退学・休学者が増加するという状況下,アルバイトの必要性を訴える声が強くなったのに対応して,大学当局も積極的にあっせんに乗り出し,また政府も,動員学徒援護会(1945設立)を改組して,1945年7月財団法人勤労学徒援護会(1947年財団法人学徒援護会に改称,現在に至る)を設置するに至った。…
※「内職」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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