脱肛(読み)ダッコウ(その他表記)Anal prolapse

デジタル大辞泉 「脱肛」の意味・読み・例文・類語

だっ‐こう〔‐カウ〕【脱×肛】

痔疾じしつの一。肛門粘膜や直腸下端の粘膜が肛門外に出てしまうこと。

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精選版 日本国語大辞典 「脱肛」の意味・読み・例文・類語

だっ‐こう【脱肛】

  1. 〘 名詞 〙 肛門部一部または全部が肛門外に脱出する状態。痔核が原因で起こる肛門粘膜脱が多い。〔色葉字類抄(1177‐81)〕 〔外科秘法‐治諸雑症品上〕

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六訂版 家庭医学大全科 「脱肛」の解説

脱肛
だっこう
Anal prolapse
(直腸・肛門の病気)

どんな病気か

 肛門や直腸の下のほうの粘膜が肛門外に脱出する病気です。肛門粘膜脱(こうもんねんまくだつ)ともいいます。内痔核(ないじかく)が進んで、肛門の外に脱出するようになった状態を指すこともあります。

原因は何か

 粘膜脱を生じる原因にはさまざまなものがあります。加齢で肛門括約筋(かつやくきん)が弱くなり、また肛門や直腸粘膜を支えている組織が弱くなって粘膜が脱出するようになったものがあります(図10)。

 また、肛門の手術を受けたあとの障害でなったものもあります。しかし、最も多いのは内痔核の程度が進んでなったものです。

症状の現れ方

 粘膜は分泌液を分泌しますが、肛門外へ粘膜が脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に分泌液が付着することで湿疹が生じ、痛がゆくなったり、ジメジメとべとついたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出するとこすられて傷つき、そのために出血や痛みがみられます。

 痔核の脱出によるものでは時に脱出したまま(痔核の嵌頓(かんとん)状態)となり、激しい痛みが現れ、一部に壊死(えし)、感染がみられ、腐ったり、ひどくなると発熱することもあります。

治療の方法

 根治的にしっかりと治すには、粘膜の脱出部分に外科的な治療をすることが必要です。ゴム輪結紮(けっさつ)療法で粘膜脱部分を処置したり、手術的に痔核切除に準じて切除したりします。

 肛門の締まりが悪くなって生じているものには、手術的に肛門の出口にナイロンなどのリングを挿入し締めることも行われます。

 痔核脱出により嵌頓状態となった場合は、嵌頓痔核と同様に処置します。

病気に気づいたらどうする

 肛門周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗ったあとは乾燥させておくようにして肛門周囲を清潔に保つように努力します。下着は通気性の良いものをつけるようにします。また刺激物の摂取、アルコールなどはひかえます。

 意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。

 以上の注意をしていても粘膜脱による出血、脱出、痛みがひどくなるようならば、坐薬軟膏などを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでも良くならなければ、外来処置、手術などの外科的処置を考えます。

岩垂 純一


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脱肛」の意味・わかりやすい解説

脱肛
だっこう

内痔核(じかく)のⅢ度(内痔核が肛門外に脱出して元に戻らない状態)を俗に脱肛とよんでいるが、医学用語としては脱出性痔核とよぶ。排便時に努責(どせき)(息張ること)によって直腸粘膜の一部が肛門外に脱出しても、排便後に自然に修復されるような一時的な肛門管粘膜の露出は生理的であり、脱肛とはよばない。脱肛すれば肛門部の腫(は)れと激痛を生じ、治療が必要となる。直腸粘膜脱は脱肛のほかに、ホワイトヘッド肛門、肛門術後瘢痕歪形(はんこんわいけい)、完全直腸脱などにもみられる。これらに対しては、いずれも外科的手術が必要で、坐薬(ざやく)や内服薬では根治性は望めない。急性の脱肛を嵌頓(かんとん)痔核とよぶが、急性期に手術することの可否については異論がある。

[竹馬 浩]

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改訂新版 世界大百科事典 「脱肛」の意味・わかりやすい解説

脱肛 (だっこう)
prolapse of the anus
anal prolapse

肛門脱ともいい,内痔核性と真性の2種類がある。前者は俗によくいわれる脱肛であって,第3度の内痔核が長年月の間に持続的に脱出したままになってしまい,内痔核の脱出とともに健康な部分の粘膜までが肛門外に脱出,露出している状態をいう。一方,真性脱肛は直腸粘膜脱あるいは直腸脱に属するもので,肛門括約筋の弛緩や骨盤底部の支持組織の弱化が基礎となって発生するものと考えられている。真性脱肛は少ない。直腸粘膜だけの一時的脱出は正常の小児でもしばしばみられ,この排便後に自然に戻る一時的な肛門粘膜面の露出は生理的なもので脱肛ではない。しかし老人の粘膜脱が持続性になると漸次悪化していく。

 治療としては,脱出性内痔核を原因とする脱肛の場合は,数個の内痔核の切除(血管結紮(けつさつ)痔核切除法)で治癒する。肛門括約筋の弛緩の著しい脱肛では,脱出している粘膜とともに全周にわたって痔核を切除する方法(ホワイトヘッド法)が必要である。
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家庭医学館 「脱肛」の解説

だっこう【脱肛 Anal Prolapse】

[どんな病気か]
 肛門管(こうもんかん)の上皮と下部の直腸粘膜(ちょくちょうねんまく)が肛門の外に飛び出した状態をいいます。原因には、Ⅱ度以上の内痔核(ないじかく)(コラム「内痔核の分類と脱肛」)、加齢(かれい)(老化)、術後の後遺症、出産による肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の機能不全などがあります。
 肛門括約筋の機能不全による便失禁(べんしっきん)(下着の汚れ)がおもな症状です。
[治療]
 痔核によるものは痔核切除術(じかくせつじょじゅつ)で治りますが、肛門括約筋の機能不全による場合は括約筋修復術(括約筋縫合術(ほうごうじゅつ)、移動術、置換術(ちかんじゅつ))が必要です。

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百科事典マイペディア 「脱肛」の意味・わかりやすい解説

脱肛【だっこう】

肛門部の一部(粘膜)または全部が外方へ脱出するもの。痔(じ)核に伴うもののほか,肛門括約筋のゆるんだ老人に多い。排便時に脱出し,時には脱出したままとなり肛門粘膜はただれ,出血して痛む。治療には脱出粘膜の切除,肛門括約筋の手術的強化等がある。はなはだしい場合は直腸脱を伴う。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脱肛」の意味・わかりやすい解説

脱肛
だっこう
anal prolapse

肛門脱ともいう。広義には肛門から腸壁の一部が脱出することをいうが,普通は内痔核があって,排便時に脱出し,それが習慣となるものをいう。軽いものは温浴や軟膏で回復するが,重いものは脱出した痔核が肛門括約筋に締めつけられて,かんとん (嵌頓) 痔核を起す恐れなどがあるので,外科的な原因除去,あるいは補整を必要とする。

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