肛門や直腸の下のほうの粘膜が肛門外に脱出する病気です。
粘膜脱を生じる原因にはさまざまなものがあります。加齢で肛門
また、肛門の手術を受けたあとの障害でなったものもあります。しかし、最も多いのは内痔核の程度が進んでなったものです。
粘膜は分泌液を分泌しますが、肛門外へ粘膜が脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に分泌液が付着することで湿疹が生じ、痛がゆくなったり、ジメジメとべとついたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出するとこすられて傷つき、そのために出血や痛みがみられます。
痔核の脱出によるものでは時に脱出したまま(痔核の
根治的にしっかりと治すには、粘膜の脱出部分に外科的な治療をすることが必要です。ゴム輪
肛門の締まりが悪くなって生じているものには、手術的に肛門の出口にナイロンなどのリングを挿入し締めることも行われます。
痔核脱出により嵌頓状態となった場合は、嵌頓痔核と同様に処置します。
肛門周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗ったあとは乾燥させておくようにして肛門周囲を清潔に保つように努力します。下着は通気性の良いものをつけるようにします。また刺激物の摂取、アルコールなどはひかえます。
意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。
以上の注意をしていても粘膜脱による出血、脱出、痛みがひどくなるようならば、坐薬・軟膏などを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでも良くならなければ、外来処置、手術などの外科的処置を考えます。
岩垂 純一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
内痔核(じかく)のⅢ度(内痔核が肛門外に脱出して元に戻らない状態)を俗に脱肛とよんでいるが、医学用語としては脱出性痔核とよぶ。排便時に努責(どせき)(息張ること)によって直腸粘膜の一部が肛門外に脱出しても、排便後に自然に修復されるような一時的な肛門管粘膜の露出は生理的であり、脱肛とはよばない。脱肛すれば肛門部の腫(は)れと激痛を生じ、治療が必要となる。直腸粘膜脱は脱肛のほかに、ホワイトヘッド肛門、肛門術後瘢痕歪形(はんこんわいけい)、完全直腸脱などにもみられる。これらに対しては、いずれも外科的手術が必要で、坐薬(ざやく)や内服薬では根治性は望めない。急性の脱肛を嵌頓(かんとん)痔核とよぶが、急性期に手術することの可否については異論がある。
[竹馬 浩]
肛門脱ともいい,内痔核性と真性の2種類がある。前者は俗によくいわれる脱肛であって,第3度の内痔核が長年月の間に持続的に脱出したままになってしまい,内痔核の脱出とともに健康な部分の粘膜までが肛門外に脱出,露出している状態をいう。一方,真性脱肛は直腸粘膜脱あるいは直腸脱に属するもので,肛門括約筋の弛緩や骨盤底部の支持組織の弱化が基礎となって発生するものと考えられている。真性脱肛は少ない。直腸粘膜だけの一時的脱出は正常の小児でもしばしばみられ,この排便後に自然に戻る一時的な肛門粘膜面の露出は生理的なもので脱肛ではない。しかし老人の粘膜脱が持続性になると漸次悪化していく。
治療としては,脱出性内痔核を原因とする脱肛の場合は,数個の内痔核の切除(血管結紮(けつさつ)痔核切除法)で治癒する。肛門括約筋の弛緩の著しい脱肛では,脱出している粘膜とともに全周にわたって痔核を切除する方法(ホワイトヘッド法)が必要である。
執筆者:立川 勲
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