STAP細胞(読み)すたっぷさいぼう

知恵蔵の解説

STAP細胞

<こちらは2014年3月時点に執筆したもので、事実関係が異なる可能性があります (14年3月20日時点)。>

刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞の略称。Nature 2014年1月30日号に掲載された小保方晴子 (理化学研究所発生・再生科学総合研究センター細胞リプログラミング研究ユニットリーダー)らによる2編の論文によって発表された。哺乳類(ほにゅうるい)の体細胞に外部から刺激を与えるだけで、未分化で多能性を有するSTAP細胞に変化するというもの。これまで発見されたES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった多能性細胞と比較して作製法が格段に容易であり、またこれらの細胞にはない胎盤への分化能をも有することで、今後、再生医療等への貢献の可能性が大きいと期待された。しかし、論文の発表直後から、追試実験が成功しないことや論文の記載に多くの不備があることが指摘され、3月現在、理化学研究所によって論文に研究不正があったかどうかの内部調査が進行している。STAP細胞の存在もまだ証明されていない。
論文は三つの部分から成り立つ。まずSTAP細胞の作製法についてで、論文によれば、生後間もないマウスの脾臓(ひぞう)から取り出したT細胞(リンパ球の一種)を、弱酸性の溶液に約30分浸した後に培養すると、生き残った細胞の一部が直径約5マイクロメートルほどに小さくなり、1週間で多能性を持つ未分化細胞に変化する。これがSTAP細胞と命名された。T細胞が使われたのは、その核内では分化の過程で遺伝子の再編成が起こるため、遺伝子を調べることでT細胞由来の細胞であるとの指標になるからだ。元々脾臓の中にある未分化細胞が選別されたのではないと論文は述べている。この細胞をマウスの皮下に移植すると、皮膚や筋肉の組織ができたことから、多能性があるとされているが、証拠となる写真は小保方の学位論文に使われた別の研究によるものの転用と判明した。T細胞由来であることを示す遺伝子の解析データにも改ざんが認められた。
二つ目の部分は、細胞の多能性を証明するため、世界で初めて体細胞クローンマウスを作製したことで知られ、当時は理化学研究所発生・再生科学総合研究センターに所属していた若山照彦・山梨大学教授が実験を行った。蛍光色素で標識したSTAP細胞をマウスの受精卵に導入し、子宮内に戻すと、生まれてきたキメラマウスには蛍光を発する細胞が全身の組織で見いだされた。三つ目は、STAP細胞から多能性と増殖能力を持つ「STAP幹細胞」を作製する方法に関してで、再生医療への応用には必須の研究である。
しかし、論文の共著者らが行った二つ目、三つ目の研究に小保方が提供した細胞には、T細胞由来であることを示す遺伝子再編の証拠がなく、論文の初めに示されたSTAP細胞とは異なる。このことは、理化学研究所が3月5日に公表したSTAP細胞の作製に関する実験手技解説によって、初めて明らかになった。若山は「信じていた研究のデータに重大な問題が見つかり、STAP細胞が本当に出来たのかどうか確信がなくなった」とし、他の共著者らに論文の取り下げを呼びかけている。

(葛西奈津子  フリーランスライター / 2014年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

STAP細胞

マウスの体の細胞を酸に浸すだけで、あらゆる種類の細胞に育つ能力を持つようになるとされた新型の万能細胞。理研の小保方晴子氏らが1月に英科学誌ネイチャーに論文を発表した。論文に画像の使い回しなど疑義の指摘が相次ぎ、理研の調査委員会は3月末、捏造(ねつぞう)と改ざんの不正を認定した。小保方氏は4月の会見で「200回以上作製に成功した」などと主張した。

(2014-08-28 朝日新聞 朝刊 1総合)

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デジタル大辞泉の解説

スタップ‐さいぼう〔‐サイバウ〕【STAP細胞】

新たな万能細胞として平成26年(2014)1月に理化学研究所の研究者らが発表した細胞の名称。発表直後から数々の疑義が指摘され、有識者による調査の結果、同年12月に同細胞の存在は否定された。
[補説]STAPは、Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency (刺激惹起性多能性獲得)の略。動物の体細胞を弱酸性の溶液に浸すなどの簡単な方法で初期化し、受精卵のようにあらゆる細胞に分化する能力を獲得させることができるというもので、注目を浴びた。しかし、論文発表者が行った検証実験でも同細胞は再現されなかった。STAP細胞とされたものは、別の万能細胞であるES細胞からつくられた可能性が高いとされる。

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百科事典マイペディアの解説

STAP細胞【スタップさいぼう】

刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cells)の略称。動物の体細胞に外的なストレス(刺激)を与えて分化多能性を獲得させた細胞,刺激惹起性多能獲得現象(STAP現象)から得られた細胞という意味で,STAP細胞と名付けられ,小保方(おぼかた)晴子(当時理化学研究所)らが発見,作製したとして小保方を代表とする共同研究者らの論文が2014年1月《ネイチャー》誌に掲載された。小保方ら理化学研究所が発表した新しい万能細胞(STAP細胞)はすでに発見されたES細胞iPS細胞などの多能性細胞に比べて格段に作製法が容易で,また胎盤への分化能をも持っているとされ,今後の再生医療への画期的な貢献が期待されるとした。この発見はこれまでの生物学の常識を覆すものとされ,世界に大きなインパクトを与えた。しかし,論文掲載直後から,追試実験がすべて成功しないことや論文の記述や記載データに不備・不正疑惑があることが次々と指摘され,さらに共同研究者の中から論文撤回の呼びかけが表明されるなど,事態は急転した。理化学研究所は調査委員会を設置し,論文に研究不正があったかどうかの調査を開始し,2014年4月調査最終報告を発表,二項目について,〈ねつ造,改ざんや悪意による研究不正に該当する〉とした。一つは画像データに明らかに切り貼りが認められるという点であり,もう一つは,STAP細胞論文に小保方の博士論文で使用されている別の実験で得られた画像が流用されているという点である。さらには,共同研究者であり,すでに世界的な名声を得ている研究者でもある笹井芳樹(当時理化学研究所,発生・再生科学総合研究センター),若山照彦(山梨大学)について,研究不正は認められないが,シニアの研究者としてデータの正当性・正確性について確認することなく論文投稿に至った責任は重大,と指摘した。また理化学研究所として,STAP現象の検証作業を野依良治理事長主導で実施すると発表した。調査委員会の研究不正の認定に対して小保方側は不服申立し再調査を求めたが,5月理化学研究所・調査委員会はこれを却けた。理化学研究所は懲戒委員会を設置し小保方をはじめ関係者の処分の検討に入った。〈世紀の大発見〉は,一転して〈未熟な研究者〉のデータ・コピー&ペースト問題という研究スキャンダルに転落したかたちとなった。8月,笹井芳樹が研究センター構内で自殺,世界の科学界に衝撃を与えた。日本の科学技術開発の基幹を担ってきた理化学研究所で起こった研究不正疑惑であることは深刻かつ重大で,問題の背景にある,日本の科学者の倫理教育の欠如,効率を競う若手研究者の過当競争,特許と研究資金を巡る研究機関同士の熾烈な競争,先端科学の成果を一刻も早く成長戦略に組み込もうとする国家等,現代日本のサイエンス研究のありかたが根本的に問われる事態となった。2014年4月以降,理化学研究所はSTAP現象の検証チームを立ち上げ,STAP現象の再現を試みた。また,7月からはこれとは別に小保方にも単独での検証実験を実施させたが,2014年12月,理化学研究所は,検証チーム・小保方のいずれもSTAP現象を再現できなかったとし,実験打ち切りを発表した。2015年2月,理化学研究所はSTAP細胞をめぐる研究不正問題に関する処分として,小保方晴子を〈懲戒解雇相当〉(2014年12月に依願退職),若山照彦を〈出勤停止相当〉と発表した。

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知恵蔵miniの解説

STAP細胞

あらゆる細胞に分化させることができる「万能細胞」の一種で、STAPはStimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency(刺激惹起性多能性獲得)の略称。2014年1月30日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子研究ユニットリーダーなどのグループが、マウスの細胞での作製に成功したと英国の科学誌「Nature」に発表した。万能細胞は皮膚・臓器などの移植に関わる再生医療他の分野において大きな注目を集めており、これまで「ES細胞」やさらに進化した「iPS細胞」の作製がなされてきた。STAP細胞は、細胞を弱酸性の溶液に30分ほど浸すことで刺激を与え、それを培養することにより作られ、iPS細胞の作製に必要な遺伝子注入を必要としない。そのため、より短時間で効率的に作ることができ、細胞がガン化する可能性も低くなると考えられている。

(2014-1-31)

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