われわれの銀河系の中にある星状のX線源を通称としてX線星と呼んでいる。現在では,太陽の放射するエネルギーの1000倍以上のエネルギーをX線の形で放射する明るいX線星の多くは,恒星と中性子星,ブラックホールなど高密度星との近接連星と考えられている。恒星が若く重い星である場合には星から吹き出すプラズマの風,晩期型の矮星(わいせい)の場合にはロッシュの限界からあふれ出る物質が高密度星に落ちていく。その際に物質は角運動量をもっているので,いったん高密度星をまわるいわゆる降着円盤を形成して,その内側から徐々に星に落ちる。この降着円盤に物質が重力ポテンシャルエネルギーをもちこんで解放するので,円盤をつくっている濃いプラズマは107~108Kほどの高温に温められ熱放射としてX線を放射する。X線連星はかりに次のように分類することができる。
第1種X線星はしばしばX線パルサーとして観測されているものである。これは電波で観測されるパルサーと同じように固有の周期で脈動するX線源であるが,電波のパルサーの周期が2~3秒より短いのに対して,周期は1秒以下のものから長いもので830秒に及ぶものが見つかっている。これは中性子星の回転の軸が磁極と外れている場合には,強い磁場をもつ中性子星の磁極に流れこむプラズマが高温になってつくる二つの熱い点が回転とともに見え隠れすることによるものと考えられている。ケンタウルス座のCen X-3が初めて発見されて以来,13個を超えるX線パルサーが見つかっている。そのパルサー周期が数日周期でドップラー効果を見せることから,X線星と恒星(主星)とが連星になって軌道運動をしていることが証明される。またX線星が主星に隠されるえんぺいも観察されている。多くの場合,主星は光学的に観測され,若く重い星であることがわかっている。
第2種のX線星は第1種ほど明確な分類ではない。それはたぶん年老いて磁場を失った中性子星と晩期型矮星との近接連星と考えられている。第2種X線星は第1種に比べて目だってX線スペクトルが軟らかい,いわば温度が低い,脈動がない,主星によるえんぺいが見られない特徴がある。それは銀河面にそって銀河中心からほぼ30度以内に群れている明るいX線星が多く,その多くが球状星団の中にある。ほかに,数ヵ月ないし1年程度の間隔で,しばらくの間明るく輝く星,銀河中心にきわめて近く,1度以内にある2~3のX線星などが第2種と考えられている。
第2種のX線星に共通した特性はX線バーストがしばしば見られることである。これは数時間ないし数日,あるいはきわめてまれにX線強度が通常の10倍ほどに急激に増加し,10秒程度の時間で減衰するものである。バーストが起きている間の温度をX線スペクトルから推定すると,X線強度は温度の4乗に比例して減衰していくことがわかる。これが黒体放射のステファン=ボルツマンの法則に一致していることから,急速に高温になった中性子星の表面が黒体放射によって冷えていくものと想像する。
急に高温になる原因は,中性子星表面にたまってくるヘリウム,あるいは水素が温度と気圧のある限界に達して起こす爆発的な熱核反応(核融合)とする考えがもっとも有力である。これは定常X線強度と比較的頻繁に数時間間隔で起きるバーストの強度を長時間にならしたものの比がヘリウム,あるいは水素原子核が中性子表面に落ちて解放する重力エネルギーと核エネルギーとの比と一致することを根拠にしている。しかし,まれにではあるがわずか数分の間隔で二つのバーストが続くことが知られている。いわば核融合爆発を起こすに十分な燃料がたまる暇がないのにバーストが起きることがある。またバーストの極大強度はエディントン強度を大きく超過していて明るすぎるなど,このモデルにはまだ検討すべき点が多い。バースト源は,1979年2月に打ち上げられた日本のX線天文衛星〈はくちょう〉がとくに力を入れて観測したもので,総数30個を超えるバースト源が発見,あるいは観測された。
X線パルサーは主星のまわりをまわることによるドップラー効果と,主星による食が見える場合にはその質量を計算することができる。4~5個のX線パルサーについて計算された質量はいずれも太陽の質量(M.)の1倍と2倍の間にあり,理論的に想像される中性子星の質量1.4M.とつじつまが合っている。
多数のバーストが観測されているバースト源1636-53 6(赤経16h36m,赤緯-53°6′にある)について,X線強度,X線スペクトルから推定した温度を使って黒体放射としての源の大きさを計算すると,いつも同じ値が得られる。つまりいつも同じ面積が爆発している。銀河中心に群れている約10個のバースト源について,その距離を銀河中心の距離8キロパーセクとして源の大きさを計算すると,いずれも半径10kmとなる。これも理論的に想像される中性子星の半径と一致している。
X線源の位置,特性については幾とおりかのカタログが出版されている。1970年末に打ち上げられた初めてのX線天文衛星ウフルの観測結果は,〈4Uカタログ〉の名でまとめられていて,マゼラン星雲のX線星,われわれの銀河系外の遠い天体も含め339個のX線源が登録されている。ほかにエアリエル-5衛星による2Aカタログ,SAS-3衛星のすだれコリメーターによって精密に位置の決められたX線星,またそこに同定された光の天体についてはマサチューセッツ工科大学のカタログがある。バーストについては日本の宇宙科学研究所の結果が使われる。大型天文衛星HEAO-2(アインシュタイン衛星)は他の衛星の観測エネルギー範囲がおもに1~2keV以上であるのに対して,1keV以下で大型X線反射望遠鏡によってけた違いに高い感度による観測を行った。その結果,通常の恒星もX線を放射していることがわかった。今日では見つかっているX線源の数は数万個を超えている。
執筆者:小田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…この銀河X線源は次のように分類されている。(1)X線星と呼ばれるわれわれの銀河系に属するX線天体,(2)超新星の残した星雲,(3)もっと近い,波長の長いX線を放射する星間空間の熱いプラズマ。なお,アインシュタイン衛星の観測によって,通常の星もそのほとんどは弱いが波長の長いX線を放射していることがわかっている。…
※「X線星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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