小売業は貨幣の発明とともに始まるといわれるが,人間が経済生活を営むうえで欠くことのできなかったのが,この小売業であった。しかし社会が進歩し生産と文化が発展して人類の生活様式が複雑となるにつれて,この小売業を支える小売店の形態もまた変化し多岐にわたるようになった。近代的小売形態としてまず登場するのは百貨店であり,1860年代のフランス,アメリカ,イギリスなど先進諸国の大都市に出現した。以後の小売形態の革新は流通革命がいち早く進行したアメリカで生じてくるが,百貨店に続いて1890年代にはチェーン・ストア,通信販売業が出現し,また1930年代には食料品販売の革新的店舗としてスーパーマーケットが登場している。さらに第2次大戦後においても,社会生活の変化にともなって新しい形態の小売店が続々と登場している。チェーン・ストアではボランタリー,フランチャイズといったチェーン経営方式の分化が進むとともに,スーパーマーケットにおいても,スーパレット,ディスカウント・ストア(ディスカウント・ハウス),ボックス・ストアなど,さらにはカタログ店,無人店舗(無店舗販売)なども登場している。一方,このような小売業界の変化に対応して,農業協同組合,生活協同組合なども小売業に進出し,農協ストア,生協ストアといった店舗を展開している。日本における小売店の近代化とその発展は明治末の百貨店の出現に始まるが,第2次大戦以前にはさしたる進歩はみられず,戦後の流通革新の時代をまたねばならなかった。今日では,アメリカからのノウ・ハウの積極的な導入の結果,あらゆる形態の小売店が発展している。しかし日本の場合の特徴は,小売店全体の80%が従業員2~4人の零細な独立営業店で占められていることである。こうした事情から流通経費がアメリカはもちろんヨーロッパ諸国と比べてまだ異常に高く,日本の物価水準の高さの原因の一つとされている。
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執筆者:鳥羽 欽一郎
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