ものを

精選版 日本国語大辞典 「ものを」の意味・読み・例文・類語

もの‐を

[1] 〘終助〙 (名詞「もの」に間投助詞「を」の付いてできたもの) 文末にあって活用語の連体形を受ける。
詠嘆を表わす。
万葉(8C後)三・三二一「富士の嶺を高み恐み天雲もい行きはばかりたなびく物緒(ものを)
② 特に、実状に対する不満や残念の気持をこめての詠嘆を表わす。→語誌(2)。
※万葉(8C後)三・三九二「ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひし物乎(ものヲ)
史記抄(1477)四「諸侯に人らしい人があらば秦に天下をば取られまいものをぞ」
[2] 〘接助〙 ((一)の用法から転じたもの。→語誌(3)) 活用語の連体形を受ける。
① 逆接を表わす。のに。けれども。
※万葉(8C後)一五・三七七一「宮人の安眠(やすい)も寝ずて今日今日と待つらむ毛能乎(モノヲ)見えぬ君かも」
※洒落本・遊子方言(1770)しののめのころ「七つにむかひをよこせといふて置たものを今にむかいをよこさいで」
② 順接を表わす。から。近世以後の用法。→語誌(4)。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「一文からの商で日がな一日ゐたり立たりする物(モノ)を、腹もへらうぢゃアねへか」
[語誌](1)(一)の用法は、活用語の連体形を受けた「もの」によって全体が体言化し、それに「を」が付いて詠嘆表現となったもので、古くは二語と考えるべきものである。
(2)(一)の①と②は詠嘆表現という点では同じであるが、②には現在または過去の事実に対する不満や後悔の念などが含まれているため、現代語の「のに」に相当する。ここに(一)の用法が(二)の用法に転ずる契機がある。
(3)(二)の用法も古くは二語と見るべきものである。
(4)江戸時代には「モノー」と発音されたらしく、「風呂ぢうでは何本もある足だものう、生憎つらまったのが此方の不調法」〔七偏人‐初〕などのように「ものう」とも表記された。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「ものを」の意味・読み・例文・類語

ものを[接助・終助]

[接助]《「ものを」から》活用語の連体形に付く。
愚痴・恨み・不平・不満・反駁はんばくなどの気持ちを込めて、逆接の確定条件を表す。…のに。…けれども。「これほど頼んでいるものを、なぜ引き受けてやれないんだ」
「まさきくと言ひてし―白雲に立ちたなびくと聞けば悲しも」〈・三九五八〉
理由・原因を強調する意を表す。…からして。…だから。
湯水をつかふのだ―、かかるが悪くは遠くへどいてるがいい」〈滑・浮世風呂・二〉
[補説]2は近世以降、「を」を省略した「もの」という形でも用いられる。
[終助]形式名詞「もの」+間投助詞「を」から》
自分の意のままにならないことを不服に思う気持ちを表す。…のになあ。…のだがなあ。「そんなに無理しなくてもよかったものを
「忍びがたく思ひ給へらるる形見なれば、脱ぎてはべらむことも、いとものうくはべる―」〈・藤袴〉
詠嘆・感動の意を表す。…のになあ。…だなあ。
「猫のへあがりて猫またになりて、人とることはあなる―」〈徒然・八九〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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