カレイ(読み)かれい(その他表記)righteye flounders

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カレイ」の意味・わかりやすい解説

カレイ
かれい / 鰈
righteye flounders

硬骨魚綱カレイ目カレイ科カワラガレイ科およびベロガレイ科の魚類の総称。ヒラメ類およびウシノシタ類とあわせて、英語でフラットフィッシュflatfish(扁平(へんぺい)な魚)とよぶ。カレイ科の魚類は世界の寒帯から温帯に、カワラガレイ科とベロガレイ科は温帯から熱帯域にかけて広く分布する。生息域はごく沿岸の浅所から深海にまで及ぶが、なかには川を上って淡水域にすむものもある。世界中で約100種が知られ、そのうち日本近海には40種余りが生息する。

[尼岡邦夫]

形態と分類

体は著しく扁平で、両眼が体の右側にある。つまり、腹側を手前(下)にして魚を置くと頭が右側を向く、いわゆる「左ヒラメに右カレイ」である。背びれは目の近くから、そして臀(しり)びれは肛門(こうもん)の直後から始まり、ほとんど似た形をし、尾柄(びへい)まで達する。両方のひれは尾びれと連ならない。側線は体の中央を直走し、胸びれの上方でわずかに上昇する種類と強く湾曲するものとがある。体は有眼側では暗紫色から淡褐色で、普通、顕著な斑紋(はんもん)がない。無眼側は一般に白色だが、ごく一部の種類では鮮やかな黄色の帯や斑(ふ)を出現させたり、暗灰色を呈したりする。

 カレイ類は、(1)一般によく知られているカレイ科と、(2)なじみのうすいカワラガレイ科とベロガレイ科とに、二分される。カレイ科は、マコガレイマガレイメイタガレイなど大部分のカレイを含み、側線が体の両側でよく発達し、背びれが目の上方から始まる。体は大形で肉は厚く、水産業上重要である。この群は寒海系で北日本に多く産し、一般に日本がこれらの種類の分布域の南限となっている。一方、カワラガレイ科はカワラガレイだけを、ベロガレイ科はツキノワガレイ、ハタタテガレイ、ベロガレイなど数種を含み、無眼側に側線がないか痕跡的で、背びれが普通は目の前方から始まる。全長15センチメートルぐらいの小形種で、肉も薄く水産業上の価値がない。両科のカレイ類は熱帯系で南日本の深所にすみ、日本がこれらの種類の北限となっている。

 カレイ群は便宜上、口の大きさでさらに三つのグループに分けられている。大口ガレイはアブラガレイ、カラスガレイ、オヒョウ、アカガレイ、ソウハチムシガレイなどで、上あごの長さは頭長の3分の1以上である。中口ガレイはマツカワホシガレイで、上あごの長さは頭長の3分の1である。小口ガレイはメイタガレイ、マコガレイ、ヌマガレイイシガレイヤナギムシガレイヒレグロババガレイなどで、上あごの長さは頭長の3分の1以下である。大口ガレイは一般に強くて大きい犬歯状の歯をもち、魚類をとらえるのに適している。小口ガレイは歯が円錐(えんすい)状で小さく、唇(くちびる)はいくぶん肥厚し、泥の中に潜む多毛類や小形動物を食べるのに適している。カワラガレイ科とベロガレイ科はいずれも口が小さいが、カワラガレイ科には無眼側に胸びれがあり、ベロガレイ科にはこの鰭(ひれ)がないことで簡単に分類される。

[尼岡邦夫]

奇形

カレイ類には奇形魚がよく出現する。たとえば、上眼は移動に失敗して頭部の背縁で止まり、背びれの前端が切れ込み、そして無眼側は有眼側と同じように着色する。このような奇形を両側有色現象(りょうそくゆうしょくげんしょう)とよぶ。また、逆に有眼側に色素が発達せず、無眼側と同じ白色である奇形を白化現象という。奇形は人工受精によって得た仔魚(しぎょ)に多く出現する。仔魚の飼育時の餌(えさ)、光、水温などの要因が考えられている。カレイ類は目の移動という特異な変態をすることと関係があると考えられている。そのほか、カレイでありながら、ヒラメのように左側に目のある側面逆位もまれに出現する。

[尼岡邦夫]

生活史

産卵期は早春から初夏にかけての種類が多く、日本では南方ほど早い。この時期には普通沿岸近くに集まってくる。卵は一般に分離浮性卵で、油球はない。しかし、マコガレイ、アサバガレイなどの卵は粘着性である。卵の大きさは種類によって異なり、その径はソウハチの0.5ミリメートルぐらいからオヒョウの4ミリメートルたらずまであるが、1.5ミリメートル前後のものが多い。孵化(ふか)仔魚の体長はオヒョウの11ミリメートルを除けば、3~4ミリメートルのものが多い。

 仔魚は左右相称で体の両側に目をもち、普通の魚となんら変わらない。しかし、10ミリメートル前後になると、左側の目が頭の背面を経由して右側へ移動する。目の移動が終わると体が横倒しとなり、底生生活をするようになる。この期の稚魚は普通沿岸の浅所で生活しているが、成長につれてだんだん深所へ移動していく。ほとんどの種はそれほど大きな移動をしないが、なかには産卵期に回遊をする種も存在する。普通、雌は雄よりも長生きする。

[尼岡邦夫]

漁業

カレイ類は、日本では昔から有用魚種として、毎年安定した漁獲量を保ってきていた。1960年(昭和35)以降、北洋漁業によってこの類の漁獲量が飛躍的に増加した。北洋で漁獲対象となったカレイは、ロスケガレイ(商品名黄金(こがね)ガレイ)、ツノガレイ(商品名黄ガレイ)、ウマガレイ(商品名白ガレイ)などで、冷凍ガレイとして販売されている。1980年代からは領海200海里の影響もあり、漁獲量は著しく減少している。漁具は主としてトロールであるが、国内では底刺網(そこさしあみ)、延縄(はえなわ)などによっても漁獲される。マコガレイ、イシガレイ、マガレイなどは釣り人の好対象魚となる。近年、マコガレイ、ヌマガレイ、ムシガレイ、イシガレイ、マツカワなどの増養殖は各地で行われてきている。

[尼岡邦夫]

釣り

種類の多いカレイ類のなかで、マコガレイ、イシガレイ、マガレイ、ヌマガレイなどが釣りの対象にされている。とくに北日本では種類も多い。釣り期は地方により差があるが、冬から春にかけてが中心である。釣り方には船釣りと投げ釣りがある。

 船釣りは、2メートル前後の先調子リール竿(ざお)に船用片てんびんをつけ、二本鉤(ばり)かカレイ専用てんびんに二本鉤で、ハリスの太さをあまり気にしなくてもよい。餌(えさ)はゴカイ、イソメ類、アサリ、ハマグリのむき身、エビなど。オモリを海底につけて、竿先を5、6回上下に小刻みに動かして餌を踊らせるようにする。そして、オモリが海底をたたく感じから、砂煙をたててやり、カレイを誘う。

 投げ釣りは、3.6~3.9メートルの専用竿で、オモリ負荷20号から30号調子のものを用い、スピニング・リールをつける。仕掛けは二、三本鉤。餌はイソメ類。2~3分に1回、2~3メートルずつ誘ってリールを巻く。

[松田年雄]

食品

カレイは、種類により味に差があり、それぞれに適した食べ方がある。マコガレイ、マガレイ、イシガレイは刺身にしておいしい。煮物には、マガレイ、メイタガレイ、マコガレイ、イシガレイが、から揚げにはメイタガレイが味がよい。メイタガレイは、背びれの付け根に特有のにおいがあるのでこの部分を除く。ヤナギムシガレイ、ムシガレイは水分が多く、生のままでは水っぽいので、干して食べるのがよい。

 そのほかのカレイは、練り製品の材料として用いられることが多い。刺身にできるものは、バター焼き、ムニエル、フライなど洋風料理にも使える。ひれの付け根の部分の肉はとくに「縁側(えんがわ)」と称し、刺身にすると味がよい。一般に産卵期が味がよいが、カレイの種類により時期が異なる。栄養的にはほかの魚よりタンパク質はやや低く、魚体の可食部分が少ない。

[河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「カレイ」の意味・わかりやすい解説

カレイ (鰈)
flounder
dab

カレイ目カレイ科Pleuronectidaeの魚類の総称。分布域は寒帯から温帯,まれに熱帯の沿岸から深海までの海底で,一部は汽水湖に生息する。種数,資源量とも寒帯地域に多く寒い地方の魚といえる。全世界で約100種,そのうち日本では約40種が知られている。ダルマガレイのように体長10cm前後の種から,オヒョウのように体長が2m以上,体重が200kgを超えるようになる種まである。体色はじみな種が多く,暗褐色または黄褐色であるが,まれに背びれやしりびれに鮮明な斑紋のある種もある。

 カレイ科の魚はヒラメ科,ウシノシタ亜目の魚とともに形態が非常に特殊であり,総称して異体類と呼ばれる。体が非常に側扁し,体の片側に両眼がついており,それに伴って頭蓋骨もねじれている。眼のある側を上にして海底にいるため,有眼側のみ着色しており,無眼側は白い。さらに軀幹(くかん)部(鰓孔(えらあな)の後端から肛門まで)が非常に短く,体のまわりを発達した背びれとしりびれが取り囲んでいる。俗に左ヒラメの右カレイといわれるように,通常,体の右側に眼のある魚がカレイで,左側に眼のあるものがヒラメとされているが,例えば日本産のヌマガレイは,ほとんどが左側に眼をもち,この定義は厳密ではない。一般にカレイ科の魚のほうが口が小さく,歯の発達も悪い傾向がある。

 カレイの形態がほぼ完成するのは着底する時期である。孵化(ふか)したばかりの仔魚(しぎよ)はふつうの魚と同じように両側に1個ずつの眼をもち,体を左右に振って遊泳している。それが底生生活に移行する直前,例えばマコガレイでは体長10mmのころに左の眼が移動し始め,額を通って右側に移る。マコガレイでは体長14mmで両眼とも右側に並ぶと着底し,さらに無眼側の色素がなくなり,有眼側の色素が濃くなって変態を終了する。成魚でまれに無眼側も着色している個体が発見されるが,眼の移動がうまくいかなかった個体にそういった例が多いといわれる。

 カレイはふだん,やや突き出た眼だけを出して海底に潜っているが,餌などが近づくとすばやく飛びつく。潜るときは発達したひれを巧みに使用して砂などをかぶる。泳ぐときは体をくねらせ,さらにひれを波立たせてかなり効率のよい泳ぎをする。カレイは冬季は産卵のため,夏季は適温を求めて深浅移動をすることが知られている。標識放流による調査によれば,オヒョウでは1500kmを移動した例が知られており,見かけより移動能力の大きい魚である。

 底生魚であり一般に夜間のほうが活発に移動するため,嗅覚(きゆうかく),味覚,さらに水流,水圧を感知する側線器官が発達しているが,とくに浅所で生活している種では視覚も重要な働きをしている。例えばイシガレイでは,敵や餌を探すために眼を盛んに動かすし,着底前の稚魚には強い走光性があることも知られている。また,周囲の色調に合わせて体色をすばやく変化させることがよく知られているが,その際,眼の周囲の底質の色調が全身の体色を決定する。そのため眼の周囲を白色にすると,後半部を黒色にしても全身が白っぽい色になってしまう。

 食性についてみると,オヒョウのように海鳥まで食べてしまう種もあるが,通常は海底,または海底近くの底生生物を常食としている。しかし,アブラガレイやオヒョウなど口が大きく歯も鋭く消化管が単純で短い種は魚類をよく食べ,ムシガレイやソウハチなど口の大きさも歯の強さも中ぐらいな種では小エビやカニ類などをおもに食べている。海底にすむ多毛類などを多く食べる種には,メイタガレイ,マコガレイ,ヤナギムシガレイなどがあるが,これらの種の口は小さく歯も弱い。また,消化管は長くてねじれも多い。しかし,同じ種でも成長していくにつれ食性が,多毛類→甲殻類→魚類と変化することがイシガレイなどで報告されている。

 産卵はふつう冬季に浅所で行われるが,一般に南のほうが早く北で遅い。産出卵はマコガレイなどを除いてほとんどが分離浮性卵である。稚魚はふつう数ヵ月の浮遊期間を経たのち,前出のように変態,着底し,ある一定の大きさに成長すると深所に移動する。カレイ類の多くは雌のほうが雄よりも成長が早く,寿命も長い。例えばイシガレイでは同年齢でも4~5cm雌が大きく,アブラガレイでは4歳以上はすべて雌だったという報告もある。成熟する体長も雄のほうが小さく,例えばヒレグロでは雌23cmに対して雄は17cmである。

日本では1960年ころ北洋での遠洋漁業が始まってから重要な漁業資源となった。底引網が主であるが,刺網,定置網,はえなわなどによっても漁獲される。イシガレイ,マコガレイ,ヌマガレイ,オヒョウなどは釣りの対象魚として喜ばれる。
執筆者:

古くはカレイとヒラメの区別がなく,ひとしなみにカレイと呼ばれ,王余魚,あるいは現在はヒラメと読む比目魚の字が用いられた。王余魚というのは,昔,越(えつ)王が魚のなますをつくり,残った片身を水に捨てたところ,それが半面だけの魚になったという説話によるという。種類が多く,呼名もさまざまだが,マガレイ,イシガレイ,ホシガレイ,マコガレイ,メイタガレイ,ムシガレイ,ヤナギムシガレイなどがおもなものである。このうち,ムシガレイとヤナギムシガレイは水分が多いため一塩の生干しにされることが多い。とくに後者はほっそりした体型で,淡紅色の卵巣までが透けて見え,若狭産のものが珍重される。その他はいずれも煮つけ,塩焼き,空揚げ,フライなどのほか,鮮度のよいものは生食する。ことに別府湾北岸の大分県日出(ひじ)町でとれるマコガレイの一種,シロシタガレイ(城下鰈)は有名で,そのフグ作りの刺身や洗いの美味を称する人は多い。なお,瀬戸内地方の名産とされるデビラガレイ(デベラとも)は,ガンゾウビラメの幼魚で,みりん干しなどにされる。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「カレイ」の意味・わかりやすい解説

カレイ

カレイ科の魚類の総称。全世界で約100種,日本では約40種が知られている。カレイ科の魚はヒラメ類,ウシノシタ類とともに非常に特殊な形態をしているので,異体類と総称される。俗に,〈左ヒラメの右カレイ〉というように,普通,目が体の右側にあるものがカレイとされる。しかし,日本産のタマガレイのように左側に目をもつカレイもいる。目は孵化(ふか)当時は普通の魚と同様に両側にあるが,成長に伴って片側に移動する。体は側扁し,有眼側は暗色で周囲の色彩に従って変化する保護色。片側は白い。種類が多く,オヒョウマコガレイ,マガレイ,アカガレイ,イシガレイメイタガレイ,ヤナギムシガレイなど重要な食用魚がある。
→関連項目底魚

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普及版 字通 「カレイ」の読み・字形・画数・意味

麗】か(くわ)れい

美しい。漢・張衡〔思玄の賦〕麗にして雙(たぐひ)鮮(すく)なきも、是の時の珍とする攸(ところ)に非ず。余が榮を奮ふも見るもの(な)く、余が香を播(し)けども聞(か)ぐものし。

字通「」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「カレイ」の解説

カレイ

 マガレイ(brown sole,small-mouthed sole)[Pleuronectes herzensteini],マコガレイ(marbled sole)[Pleuronectes yokohamae],イシガレイ(stone flounder)[Kareius bicoloratus],メイタガレイ(finespotted flounder,frog flounder)[Pleuronichthys cornutus],マツカワ(barfin flounder)[Verasper moseri]など.カレイ目カレイ科の海産魚.食用にする.

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デジタル大辞泉プラス 「カレイ」の解説

カレイ

アメリカ、クロス社のボールペンの商品名。太軸。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カレイ」の意味・わかりやすい解説

カレイ

「カレイ科」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のカレイの言及

【ヤナギムシガレイ(柳虫鰈)】より

…カレイ目カレイ科の海産魚。北海道南部以南の日本各地に分布し,中国にも見られる。体は非常に側扁し細長く柳の葉のようであるところからこの名があり,同様に新潟,北陸,山陰ではササガレイという。体色は淡い褐色で,側線が両体側によく発達している。口が小さく,両眼の間隔は狭い。産卵期は本州南部では1~4月,東北以北では6~7月である。卵は1.2~1.3mmの球形分離浮性卵で,卵膜表面に大型の網目状の模様が見られる。…

※「カレイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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