翻訳|heron
コウノトリ目サギ科Ardeidaeの鳥の総称。英名は一般にheronであるが,コサギの仲間はegret,ヨシゴイ,サンカノゴイの仲間はbitternと呼ばれる。サギ科は極地を除く全世界に分布し,15~20属約62種に分類される。日本産のものは,迷鳥や絶滅種も含めると18種になる。全長28~145cm。最大種のオニアオサギArdea goliathやシロハラサギA.imperialisはツル類に匹敵する大型鳥だが,最小種のコヨシゴイIxobrychus exilisはヒヨドリ大の大きさしかない。サギ類はみな渉禽(しようきん)型の体型をもち,くびと脚とくちばしが長い。翼は幅広く丸く,飛び方は長いくびをZ状に曲げ,ゆっくりとはばたいて飛ぶ。足は腿の下部まで裸出し,あしゆびも長く,水中を歩いて餌をあさることに適応している。水かきはない。中指のつめには痕跡的な櫛(くし)状の刻みがある。羽色は種によって異なるが,多くの種では背や胸に飾羽があり,また後頭に冠羽をもつものも少なくない。クロサギEgretta sacraやアカゲサギE.rufescensでは,通常の羽色のほかに全身白色の白色型が知られている。粉綿羽(ふんめんう)はすべてのサギ類に存在している。これは一生換羽しない特殊な羽毛で,その先端は崩壊して耐水性,耐摩耗性に富む微小な角質の粉末となる。それを他の羽毛にこすりつけると,羽毛がぬれたり,血や泥や魚のぬめりで汚れるのを防ぐのに役だつと考えられている。
多くのサギ類は水辺を好み,とくに河岸,湖畔,湿地,水田,河口,海岸などに生息する。しかし,ミゾゴイやトラフサギの仲間には深い森林にすむものがある。また一般に昼行性であるが,ゴイサギやサンカノゴイはおもに夜間活動する。食物は生きた動物だけで,大型種は魚類,カエル,巻貝,甲殻類,昆虫類などのほかに,ヘビ,トカゲ,ネズミ,小鳥,雛なども食べる。小型種は昆虫類,小魚,小型のカエルなどを餌としている。アマサギやコサギはしばしば家畜や大型哺乳類のいる付近に群がっていて,それらの哺乳類が追い出すバッタをとって食べる。餌のとり方は,浅い水中を歩きながら獲物をあさる方法と,じっと待っていて通りかかった獲物をすばやくとらえる方法とがあり,どちらの方法もよく使われる。なお,骨やうろこのような不消化物はペリットとして吐き出す。
営巣は,多数の個体が集まって集団で行うものと,つがいだけで行うものとがあり,集団営巣をするものが多い。集団営巣をする代表的なものはアオサギ,シラサギ類,アマサギ,ゴイサギなどで,しばしば数種のサギが大集団をつくって繁殖する。こうしたサギ類の集団営巣地をコロニーと呼ぶが,俗にサギ山と呼んでいる。数百羽のサギが雛に餌を運ぶさまは壮観だが,糞の悪臭やそうぞうしさや木を枯らすためにきらわれてもいる。サギ類の巣は小枝を組み合わせただけの簡単なもので,ふつうは樹上につくられる。しかし,地上や岩棚に営巣する場合もあり,またヨシゴイやサンカノゴイの仲間はヨシの茎の上に枯茎の巣をつくる。1腹の卵数は3~7個,卵は多くの場合淡青色か白色で無地である。営巣,抱卵,育雛(いくすう)は雌雄が交替であたる。抱卵期間は22~30日。
ねぐらも集団でとるものが多い。高緯度地方で繁殖する種はほとんどがみな渡りをする。熱帯地方では留鳥だが,雨期と乾期にしたがって移動するものが少なくない。また,繁殖後に四方に散らばる分散的移動も知られている。声は一般に太いしわがれ声で,美しい声ではない。サンカノゴイは,食道を共鳴器として,うなるような声を出す。
サギ科は,真正サギ類とヨシゴイ類とに大別できる。前者はアオサギArdea,コサギEgretta(チュウサギ,ダイサギなども含む),アマサギBubulcus,アカガシラサギArdeola,ササゴイButorides,アガミサギAgamia,フエフキサギSyrigmaなどの諸属の昼行性サギ類,ゴイサギNycticorax,ミノゴイNyctanassa,ミゾゴイGorsachius,ヒロハシサギCochleariusなどの属を含む夜行性のゴイサギ類,熱帯のジャングルに生息する原始的なトラフサギ属Tigrisomaなどよりなり,サギ科の大部分を占める。後者はヨシゴイ属Ixobrychusとサンカノゴイ属Botaurusよりなり,ヨシ原の生活に適応している。サギ類は姿がよいので,動物園や公園ではよく飼われている。しかし動物食なので個人が飼うのには適していない。
執筆者:森岡 弘之
エジプトのヒエログリフ(聖刻文字)でサギの形は〈朝〉を表し,日の出を最初に迎える鳥と考えられた。またサギはオシリスの心臓から飛び立ったともいわれ,そのために再生の象徴であるフェニックス(フォイニクス)と混同されることもある。一方,北欧神話では,未来のできごとを知り尽くしながら沈黙を守る女神フリッグが冠にサギの羽を差していたことから,この鳥が沈黙の象徴とされた。これがキリスト教世界に受け継がれ,沈黙の寓意として石をくわえたサギが描かれるようになった。また諸芸の女神ムーサ(英語ではミューズ)の聖鳥として,後世には詩人を象徴する鳥にもなった。中世にはとくに鷹狩りに出る際にサギの羽を服につける習慣があった。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鳥綱コウノトリ目サギ科に属する鳥の総称。英名は一般にheronであるが、コサギの仲間はegret、サンカノゴイ、ヨシゴイの仲間はbitternとよばれる。
サギ科Ardeidaeは15~20属約62種に分類され、極地を除く全世界に分布する。全長28~145センチメートル。最大種はオニアオサギArdea goliathやシロハラサギA. imperialisで、最小種はコヨシゴイIxobrychus exilisである。サギ類は、すべて頸(くび)、足、嘴(くちばし)が長く、渉禽(しょうきん)型の体形をもっている。ただし、ゴイサギNycticorax nycticoraxやミゾゴイGorsachius goisagiは比較的頸が短い。サギ類の特徴の一つとして、飛ぶときには長い頸をZ状に曲げる。翼は幅広く丸く、ゆっくり羽ばたいて飛翔(ひしょう)する。足は少なくともももの下部まで裸出し、4本の足指は長いが、水かきはない。中指のつめには痕跡(こんせき)的な櫛(くし)状の刻みがある。この刻みがある理由は明らかでないが、これもサギ類の特徴である。もう一つの特徴は、粉綿羽(ふんめんう)の存在であろう。粉綿羽は一生抜け替わることのない羽毛で、その先端は崩壊して、きわめて微小な角質の粉末となる。この粉末は耐水性に富み、他の羽毛について、羽毛がぬれたり、血や泥や魚のぬめりで汚れるのを防ぐのに役だつ。羽色は種によって異なる。クロサギEgretta sacraの黒色型と白色型のように、同じ種が個体によって異なった羽色をもつこともある。
[森岡弘之]
生息環境は、一般に川岸、湖畔、湿地、水田、海岸などを好み、一部の種が森林やサバナにすむ。食性は完全に動物食である。大形種は、魚類、カエル、タニシ、甲殻類、昆虫類などのほかに、ヘビ、トカゲ、ネズミ、小鳥などもつつき殺して食べる。小形種は昆虫類を主食とし、小魚や小形のカエルも餌(えさ)とする。アマサギはほとんど昆虫類だけを常食としている。多くのサギ類は昼行性で、昼間に歩きながら餌をあさるが、ゴイサギやサンカノゴイのように夜間活動するものもいる。
多くのサギ類は、繁殖期になると、頭、胸、背などに飾り羽が目だち、また顔の裸出部、目の虹彩(こうさい)、足などが赤や緑や橙黄(とうこう)色の濃い色となる。飾り羽や裸出した部分の色は、繁殖に先だつ各種のディスプレーや種の認知の際に、さまざまな意味を表すのに用いられる。営巣は集団で行うものと、単独で行うものとがあるが、集団営巣する種が多い。集団営巣する代表的なものは、アオサギ、シラサギ類、アマサギ、ゴイサギなどで、数種がいっしょの大集団をつくり、繁殖する。こうしたサギ類の集団営巣地はコロニーとよぶのが正しいが、一般にはサギ山として知られている。数百羽のサギが雛(ひな)に餌を運ぶさまは壮観であるが、糞(ふん)が悪臭を放つのと、木を枯らすために、嫌われるようである。またサギ類の鳴き声は一般に太いしわがれ声で騒がしく、美しい声ではない。熱帯地方のものは留鳥であるが、高緯度地方で繁殖する種は、ほとんど渡りをする。しかし、熱帯地方のものでも、雨期と乾期に従って移動するものが少なくない。
[森岡弘之]
サギ科は大別すると、真正サギ類とヨシゴイ類とになる。真正サギ類は、アオサギ、コサギ、アマサギ、アカガシラサギ、ササゴイ、アガミサギ、フエフキサギなどの昼行性サギ類、ゴイサギ、ミノゴイ、ミゾゴイ、ヒロハシサギなどよりなる夜行性のゴイサギ類、熱帯のジャングルに生息する原始的なトラフサギ類を含み、サギ科の大部分を占める。ヨシゴイ類は、ヨシゴイ属とサンカノゴイ属とよりなり、優れた擬態行動が示すように、ヨシ原(葦原(あしはら))の生活に適応している。日本には真正サギ類14種、ヨシゴイ類4種が分布し、そのうち13種が繁殖している。サギ類は姿がよいので、動物園や公園ではよく飼われているが、動物食のため、一般の飼育には適さない。
[森岡弘之]
シラサギ類には神秘的な伝えが多い。京都市左京区の石座神社(いわくらじんじゃ)の神使はサギであるといい、沖縄県石垣島には、シラサギがいた所を聖地として祀(まつ)ったという伝説がある。鎌倉市の円覚寺(えんがくじ)などには、シラサギに導かれて境内を定めたという伝えがある。シラサギが発見したという温泉も全国にあり、「鷺の湯(さぎのゆ)」などの名で知られている。類例は朝鮮にもみられる。また、眼病に効く霊水をアオサギがみつけたという伝説もある。西域(せいいき)の楼蘭(ろうらん)では、愛のしるしに男から女へアオサギの羽を贈ったといい、その遺跡からはアオサギの羽を伴った貴婦人の墓も発見されている。
ゴイサギ類は怪異な鳥として知られる。夜、火の玉が飛ぶのはゴイサギであるといわれ、胸の毛が光るからだという。ヨーロッパでも、ゴイサギは胸の羽の光で魚を集めたり、虫をとって食べるという。石垣島で「ヨーラサー」というのも声だけの怪鳥というが、この類のサギらしい。この鳥は火吹き鳥で火事をおこすといわれ、夜、声を聞くと杵(きね)で臼(うす)の縁をたたいて追う習慣があった。『平家物語』には、醍醐天皇(だいごてんのう)が神泉苑(しんせんえん)のサギを招いたところ、平伏して飛び去らなかったので、五位に叙し、首にサギの王であると記した札をつけて放したという「五位鷺」の由来譚がある。古代ギリシアのホメロスの『イリアス』には、サギが夜飛んできて鳴いたのを、オデュッセウスが吉兆としたという話がみえる。
[小島瓔]
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