一見ビーバーに似た大型の齧歯(げつし)類で,チンチラ,テンジクネズミなどに近縁のカプロミス科に属する。ブラジル南部からアルゼンチン,チリなどの南アメリカに分布するが,北アメリカ,イギリス,ヨーロッパ,旧ソ連,日本などで野生化している。体長43~64cm,尾長25~43cm,体重5~17kg。体はずんぐりと丸く,頭部が大きい。水生に適応し,目と耳は小さいが,尾はビーバーのように平たくなく円筒状で,後足には水かきが発達する。毛は粗い上毛と防水性が高く柔らかな下毛からなり,黄褐色ないし赤褐色。
水生植物の茂みの間にトンネルを掘って巣をつくり,ふつう雌雄でくらす。朝夕,あるいは日中も活動するが,基本的には夜行性で,水草類や陸上の草を食べる。雌は年に2~3回出産し,妊娠期間は128~130日で,1産1~13子,ふつう5子を生む。子はよく発育した状態で生まれ,体重およそ225gで,目はひらき,上毛は十分に生え,生後2~3時間のうちに動き回り,2~3日後にはかたい植物を食べ始める。母親の乳首は体側にあるので腹ばいのまま授乳でき,さらに水面に浮かびながらも乳を与えることができる。
毛皮が比較的良質なため世界各国で養殖され,そこから逃亡したものが野生化し,土手などに穴をあけ,キャベツやコムギなどの畑を荒らすことがあるため害獣となった。日本でも岡山県などに野生化している。現在では養殖はすたれ,多くの地方では野生化したものも数が減っているが,北アメリカでは依然として多く,毛皮として約200万頭ぶんが市場に出ている。
執筆者:今泉 忠明
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哺乳(ほにゅう)綱齧歯(げっし)目カプロミス科の動物。南アメリカのチリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビア、ブラジル南部に分布し、北アメリカ、東アジア、東アフリカ、ヨーロッパなどに帰化している。湖沼や流れの弱い河川などの岸辺にすみ、巧みに泳ぎ水草を主食にしている。日本では1939年(昭和14)に軍用の毛皮獣として150頭が初めて輸入され、1944年には4万頭も飼育されていた。第二次世界大戦が終わると需要がなくなり、放置されたものが野生化し、岡山県や京都府、兵庫県などで帰化している。カイリネズミ(海狸鼠)、ショウリ(沼狸)ともよばれる。頭胴長43~63センチメートル、尾長26~42センチメートル、体重6~10キログラム。外形はドブネズミに似て、大形で目や耳は小さい。前・後足とも5指であるが、後足の第1~第4指間には水かきがある。体色は、長くて粗い上毛は黄褐色か赤褐色、柔らかくて上質の下毛は羊毛状で暗灰色である。尾にはまばらに毛が生えていて、鱗(うろこ)が裸出している。水辺の土手に穴を掘って、群れですむ。妊娠期間は130日ぐらいで、1年に2~3回出産する。1産1~13子、平均5子を産む。子は、体重が約220グラムもあって目は開き、毛が生えている。乳頭は胸部の体側に4対あるが、母親は5日間しか哺乳しない。子は2~3日で餌(えさ)を食べ、泳ぐことができる。生後3~4か月で成熟し、6~7か月後に出産する。寿命は6~7年。毛皮は、カワウソに似て上質である。
[土屋公幸]
(2013-7-26)
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… 偶然に帰化したものとしては,飼育していたものが逃げ出して定着したものに,1918年ころから食用に北アメリカから移入し,各地で養殖していたが,その一部が逃げ出して各地に野生化したウシガエル,そのウシガエルの餌として30年ころ神奈川に移入して養殖していたところ,大雨による出水で逃げ出して,付近の水田などに野生化し,しだいに各地に分布を広げたといわれる北アメリカ産のアメリカザリガニ,35年ころ食用に台湾から移入したものが,小笠原,奄美,沖縄などに野生化した,アフリカ原産のアフリカマイマイなどがある。また,愛玩用に飼育していたものが逃げ出して帰化したものに,北海道,岐阜の金華山などに野生化した韓国産のチョウセンシマリス,東京付近などに野生化したセキセイインコその他多数の飼鳥,動物園で飼育していたものが逃げ出して野生化したものに,伊豆大島,鎌倉などにすみついた台湾原産のタイワンリス,毛皮獣では第2次大戦中南アメリカから輸入し,各地で盛んに養殖していたが,その一部が逃げ出し,岡山その他に野生化したヌートリア,同じころ養殖されていたと思われ,東京の江戸川付近に定着している北アメリカ産のマスクラット,戦後毛皮獣として輸入され,養殖されていたものが逃げ出し,北海道で野生化した北アメリカ産のミンクなどがある。さらに,輸入した植物などに付着して偶然に入って来たと思われるものに,明治末に観賞用植物についてオーストラリアから入ってきたイセリアカイガラムシ,第2次大戦中に日本に入った北アメリカ原産のアメリカシロヒトリ,同じころ中国から入ったアオマツムシなどがある。…
※「ヌートリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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