仮釈放を認められた人や非行少年らが社会で更生できるよう、面接などで生活状況を把握し、必要な指導をする制度。裁判所などが要否を決定する。法務省職員の保護観察官が立てた計画に沿って、保護司が処遇に当たるのが一般的で、住居の確保や就業の支援も行う。法務省によると、2022年に保護観察が開始されたのは2万3996人だった。
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犯罪を行った者や犯罪を行う危険性のある者を、一定の施設に拘禁することなく、自由な社会生活の場に置いて自主的な生活を営ませながら、一方においてその者が遵守事項を守るように指導監督し、他方においてその者の社会復帰を促進するために補導援護を行う処分。沿革的には、大陸法系の権力的・監視的なものと、英米法系の非権力的・保護的なものの二系列がある。第二次世界大戦前、日本の観察制度は、旧少年法の少年保護司による観察を除いて、旧刑法における付加刑としての警察監視、仮出獄者に対する特別監視、監獄法に規定されていた仮出獄者に対する警察官署の監督、思想犯保護観察法に基づく保護観察など、監視的なものであったが、第二次世界大戦後は、英米のプロベーションprobation(宣告猶予、執行猶予に伴う観察)やパロールparole(仮釈放に伴う観察)の例に倣い、比較的保護的なものに統一されている。ただし、指導監督には監視的な意味がまったくないわけではない。現在の日本の保護観察は更生保護法(前身は犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法)によって規定されている。
現行制度における対象者は、保護処分として家庭裁判所の決定により保護観察に付された者(1号観察)、少年院を仮退院した者(2号観察)、仮釈放された者(3号観察)、刑の執行を猶予され保護観察に付された者(4号観察)、婦人補導院を仮退院した者(5号観察)である。期間は、1号観察では本人が20歳に達するまで(その期間が2年未満の場合には2年。また、特定少年〈18歳・19歳の少年〉の場合には、6か月または2年の期間)とし、2、3、5号観察については仮釈放・仮退院期間と同じ期間、4号観察については執行猶予期間満了の日までと定められている。保護観察所が実施し、保護観察官と保護司は協力して対象者と適当に接触を保ち、つねにその行状を見守るとともに、遵守事項を守り、生活行動指針に即した生活や行動をさせるために必要かつ適切な指示を与える。また、対象者のニーズに応じて、教育訓練・医療・生活保護などを受けさせ、職業を補導し就職を助ける。遵守事項には、法律に定める一般遵守事項と、地方更生保護委員会あるいは保護観察所長が個々の対象者について定める特別遵守事項がある。一定の対象者に対しては、特別遵守事項として認知行動療法を基盤とする「性犯罪者処遇プログラム」等の専門的処遇プログラムの受講が義務づけられている。また、指導監督を適切に行うため必要がある場合、特別遵守事項のほかに、生活や行動の指針が定められる。保護観察を継続する必要がないと認められるほど保護観察の成績が良好である場合には、「良好措置」として期間満了前に保護観察を打ち切ったり、仮に解除することができる。他方で、保護観察中にふたたび犯罪・非行をしたり、遵守事項に違反しているなど保護観察の成績が不良である場合には、「不良措置」として、刑務所・少年院等に収容・再収容しうる。
保護観察対象者に対する処遇として、アセスメントツールであるCFP(Case Formulation in Probation/Parole)を利用したアセスメントに基づく保護観察が実施されている。本アセスメントツールにより、再犯・再非行に結び付くリスク要因および改善更生を促進する要因が分析されるとともに、それらの要因の相互作用や犯罪・非行に至る過程等が検討されることになる。また、「類型別処遇制度」として、保護観察対象者を犯罪や非行の態様、特徴的な問題性等によって類型化して把握し、類型ごとの特性に着目した処遇を実施している。現在、関係性領域(「児童虐待」など)・不良集団領域(「暴力団等」など)・社会適応領域(「就労困難」など)・嗜癖(しへき)領域(「薬物」など)といった4領域で計16の類型が設けられている。
保護観察は典型的な社会内処遇(社会のなかで生活を営ませながら行う犯罪者処遇の形式)であり、数のうえでは自由刑や少年院収容などの施設内処遇を上回る対象者を抱え、刑事政策上とくに重要な分野の一つになっている。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
法務大臣の管理のもとに各地方裁判所の管轄区域ごとに置かれる機関。保護観察の実施のほか、犯罪予防を目的とする世論の啓発、社会環境の改善、地方住民の活動支援などの事務を行う。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
地方更生保護委員会の事務局および保護観察所に置かれる社会内処遇の専門家。医学、心理学、教育学、社会学など更生保護に関する専門知識に基づいて、保護観察・調査・生活環境の調整など犯罪者・非行少年の更生保護と犯罪予防に関する事務に従事する。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
『今福章二・小長井賀與編『保護観察とは何か――実務の視点からとらえる』(2016・法律文化社)』▽『日本更生保護協会編・刊『更生保護便覧』第9版(2019)』▽『松本勝編著『更生保護入門』第5版(2019・成文堂)』
犯罪者に対して,その改善・更生を助けるために,社会内において,ケースワーク的方法により,国家の機関による指導監督および補導援護を行う処遇方法。強制的に科される点で任意保護である狭義の更生保護活動と異なる。
保護観察制度は,おもにイギリス,アメリカで発達したプロベーションprobationとパロールparoleの制度に起源をもつ。プロベーションは,刑の執行をせずにはじめから行われる保護観察で,刑の執行猶予,宣告猶予や起訴猶予に伴って行われる。1841年にマサチューセッツ州でボストンの一民間人オーガスタスJohn Augustusが裁判の傍聴に出かけ,見込みのありそうな被告人の判決の宣告を猶予してもらい,みずから引き取って更生させ,同様の方法で2000人近い人の世話をして非常な成功を収めたのに始まるとされる。州政府は,その業績に注目し,制定法によって州の機関であるプロベーション・オフィサーにそれを担当せしめることとし,プロベーション制度が成立した。その後,99年にシカゴで生まれた少年裁判所制度において,少年に対する保護処分の一態様としてとり入れられ,全世界に広まることとなった。
パロールは仮釈放とその後の監督をさし,拘禁後の社会復帰を助けるために,主として行政機関によって実施されてきた。仮釈放制度とともに発達したものであるが,1877年,ニューヨーク州法で初めてパロールの語が用いられた。
日本においては,82年施行の旧刑法が仮出獄制度を規定し,〈本刑期限内特ニ定メタル監視ニ付ス〉(55条)としていたが,それは警察による監視であった。1905年,刑の執行猶予が制度化されたが,保護観察はとり入れられず,07年の新刑法における仮出獄の要件の緩和後も,期間内の監督は警察官署にまかされていた。本来的な意味での保護観察の始まりは,22年の旧少年法が保護処分の一つとして少年保護司の観察に付すことを定めたこととされる。成人に対する保護観察は,36年の思想犯保護観察法が,治安維持法違反者を対象とする保護観察を定め,全国22ヵ所の保護観察所と保護観察審査会によって運営されたのを最初とする。
第2次大戦後,49年に犯罪者予防更生法が制定され,新しい保護観察制度の理念・組織が明定されたが,少年と仮出獄者に対する保護観察を定めたのみであった。執行猶予者に対する保護観察を設けることには,戦前の警察監視的なイメージが残存し,抵抗が強かったが,53,54年の刑法の一部改正により執行猶予者にも保護観察を付しうることとされ,執行猶予者保護観察法(1954公布)が成立して,現行の保護観察体制が完成した。
現在,その対象により次の5種類の保護観察が行われている。(1)1号観察 少年法24条1項1号の保護観察処分に付された者を対象とし,期間は本人が満20歳に達するまで,ないしは2年間であるが,必要ないと認められるときは停止または解除することができる。(2)2号観察 少年院からの仮退院者に対し仮退院期間中行われる。(3)3号観察 仮出獄者に対するもので,期間は残刑期間である(以上は犯罪者予防更生法33条1項)。(4)4号観察 刑の執行猶予者で保護観察に付された者(刑法25条の2)を対象とするもの。(5)5号観察 婦人補導院からの仮退院者を対象とするもの(売春防止法26条)。1号と4号がプロベーションにあたり,2,3,5号がパロールにあたるが,日本では法務省の保護局に統轄され,都道府県ごとに所在する保護観察所において統一的に実施されている。
保護観察の対象者は,その期間中一定の事項を遵守しなければならない。一定の住居に居住し,正業に従事すること,善行を保持すること,住居を転じまたは長期の旅行をするときは許可を求めることなどの法定遵守事項(犯罪者予防更生法34条2項,執行猶予者保護観察法5条)のほか,1,2,3,5号観察者には,特別遵守事項が個々に定められる。これらの遵守事項を守らない場合には,仮釈放が取り消されて刑務所等に再び収容されたり,執行猶予が取り消されて刑が執行されることがある。
保護観察の実施は保護観察官と保護司の協働態勢で行われており,通常,次のようなやり方で進められる。保護観察が開始されると,法務省管下にある保護観察所の長が主任保護観察官と担当保護司を指名し,主任官が当初対象者に面接して処遇計画表ないし調査表を作成し,それを担当者に送付する。担当者はそれにより指示された方針に基づいて処遇を行い,その経過を毎月成績報告書で保護観察所の長に報告する。その処遇内容である指導監督は,本人と適当に接触を保ち,つねにその行状を見守ること,遵守事項を遵守させ本人が社会の善良な一員となるよう指示を与えることなどの方法によるものとされ,補導援護は,教養訓練,医療および保養,宿所,職業,帰住等について助け,環境の改善・調整その他更生に必要な措置をとることとされている(犯罪者予防更生法35条,36条)。
施設処遇の弊害と限界がとなえられるなかで,社会内処遇方法として,保護観察はますます重要性を増してきているといえる。1961年ごろから試みられている保護観察官が専門的処遇を行う重点観察という方式や,交通事犯少年に対する集団処遇を加えた方法等,多様な方法が開発されてきているとはいえ,管理職を除く保護観察官数は892人(1994年4月)で平均担当数は約150人(1994年9月)に及び,多くは保護司に頼らざるをえない現状にある。専門家たる保護観察官の増員による積極的処遇の実施,中間施設の活用等により,保護観察がより活性化されることが望まれる。
執筆者:岩井 宜子
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…日本の刑法は,懲役,禁錮,罰金について執行猶予の制度を認めているにすぎない。執行猶予(およびそれと結びついた保護観察)の拡充・改善のほか,猶予に関する別の制度をも導入すべきではないかが問題とされている。有罪判決の宣告猶予,刑の宣告猶予といった制度が検討されたが,改正刑法草案はその導入を見送っている。…
…広義には,行刑その他の施設内処遇を矯正と呼ぶのに対して,犯罪者の社会復帰を促進するために社会内で行われる公共的な活動一般を指す。狭義には保護観察のように強制的に行われるものを除いた,犯罪者予防更生法(1995改正)の更生緊急保護の規定に基づいて,任意的に行われる,金品貸与,宿泊所供与,就職援助等の犯罪者の更生を保護し援護する活動をいう。
[歴史]
源流としては,古代における赦(しや)の制度にその思想の萌芽をみることができる。…
…同法ははじめ1934,35年の治安維持法改正案に含まれていたが,同法案不成立のため36年5月単独立法の形で議会を通過,同年11月施行された。朝鮮でも同年12月ほぼ同一の内容の朝鮮思想犯保護観察令が出された。日本国内では全国22ヵ所に保護観察所が置かれ,〈保護観察〉に付された者は保護司によるかあるいは保護者に引き渡し,または保護団体,寺院,教会などに委託して私生活に及ぶ監視が実施された。…
…審判は裁判官が主宰し,通常家庭裁判所調査官,少年本人,保護者,少年または保護者に選任された付添人(10条)等が出席する。少年法には〈審判は,懇切を旨として,なごやかに,これを行わなければならない〉(22条)と定められており,審理は非公開で,刑事訴訟のような〈対審〉の構造をとらず,裁判官は少年に直接発問して少年の供述を聴き,非行の有無を確かめ,さらに保護者や付添人等の意見の陳述を聴いたうえで,少年に対する保護処分を決定する(保護処分には,(1)保護観察所の保護観察,(2)児童自立支援施設(旧教護院)または児童養護施設送致,(3)少年院送致の3種類がある。24条)。…
※「保護観察」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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